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第四百十二話_short かいぶつ [horror(戦慄)]

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 ヨーロッパには古くから吸血鬼伝説があって、十九世紀の作家ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」なんかで有名になったけれども、ぼくはあれは伝説でもなんでもなく、また吸血鬼という怪物なんかでもなく、実在した人間の話だと思っている。つまり、壊血病やエボラ出血熱みたいな病に冒された、あるいはもしかしたら遺伝子的に血液から栄養を摂らなければ死んでしまう体質の人間がいたのだと信じている。

 なぜそう信じているのか、ドラキュラについていろいろ調べたのか、そう訊ねられたら答える術を持たないのだけれど、経験値としてそう思っているのだ。

 子供の頃、父が黙ってドラキュラの本をぼくに読みなさいといって渡したのだが、それを読んで見たら、すぐにぼくはすべてを理解できた。世の中にはさまざまな生き物や人間がいて、みんなが同じようなものを食べているとは限らない。魚を採って食べる民族、牛豚を食べる民族、犬や猫も食べる民族、植物だけを食べる民族、その食文化はさまざまだ。それに、もっと特殊な人間、一切のアルコールを受けつけないとか、ある種の消化酵素を持たないとか、そのような体質の人間もいるのだと思う。

 「思う」というのは、まさにぼくがそのような体質だからだ。

 小さい頃は普通の人と同じように、米や肉や魚を与えられていたというけれども、そのほとんどが消化されずに排出されてしまい、幼いぼくは悪しき体質を先祖から受け継いだ子供であることがわかったという。父も祖父も同じような体質であったし、男の子が生まれたときに遺伝するかもしれないと恐れたそうだが、それが現実のものと知ったときには、諦めの気持ちしか湧かなかったそうだ。

 つまりぼくは祖先から特殊な体質を受け継いでしまった数少ない人間なのだ。

 幸いなことにドラキュラのような血を求める人間ではない。だから他人の命と引き換えに糧を得るようなことはない。だが、限りなくそれに近いともいえる。 

 ぼくはいまは亡き父から栄養の摂り方を教わり、そのようにして命をつないでいる。そして今日も深夜を待って家を出て、目星をつけた家に忍び込む。

 その家の寝室に静かにもぐりこみ、熟睡している獲物の鼻腔にビニール管を静かに射しこんで……。

 ぼくは人の体液からしか養分を取り込めない特殊な体質を持った人間なのだ。時代が時代なら「吸液鬼」などとかいぶつ呼ばわりされていたかもしれない存在なのだ。 

                      了


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