第四百五十六話_short 謎のワンカット撮影 [horror(戦慄)]
「本編は全編ワンカットで撮影されています」
ホラー映画の冒頭でそんなメッセージが現れたので、普段気にもしない撮影手法を意識しながら見ることになった。
ワンカット撮影とは、一度もカットすることなく同じカメラをずーっと回し続ける手法だ。普通は場面毎にいったんカメラを止める(カット)という方法で撮影を繰り返し、後に編集で場面をつないでいって一連の映画が出来上がる。だから時間は飛ぶし、場所も変わる、場合によっては視点もがらりと変わってしまう。
ところがワンカットだと時間は見ている者と同じように進んでいき、場所もいきなり遠くに飛んで行けない。わかりやすく言えばいま僕が自分の目で見ているそのまま物事が進んでいく感じだ。
映画の場合、難しいのはカメラが主人公の視点であると同時に、主人公の姿もとらえるために別の視点が必要になるのだが、その切り替えだ。部屋の中を主人公が見ているとして、いつの間にかカメラは主人公の目から離れて別の場所から主人公を映し出す。それはあたかも幽体離脱しているような視点の移動だ。
敢えて冒頭で撮影手法等が表示されるものだから、ほんとうにカットが入ることはないのだろうか、どっかで編集がはいっているのではないだろうか、役者は二時間ほどの連続した演技をどうやって継続させるのだろうかなどと、いつもと違うやり方で映画を鑑賞することになってしまった。
冒頭明るく普通の女の子だった主人公の表情が中盤になって恐怖に包まれていく。一時間足らずの間に人はこんなにも変貌するものかと思うのも、ワンカットであると思うからだ。見ている僕はどうなのだろう。恐いシーンを見続けているのだからきっとあの女の子ほどじゃないにしても恐怖の色が張り付いているに違いない。
テレビ画面だけを見つめていた僕の視線は少しずつずれていって、気がつけばテレビの前で少しだけ固まっている僕の姿が目に入る。テレビから大きな音声が流れると、僕も主人公と一緒にびくっと飛び上がる。カメラ、正面から恐怖に歪む僕の顔に迫る。僕はもはやホラー映画を見ているのだか、ホラー映画を見ている僕を見ているのだか、わからなくなっている。
部屋のどこかでパタパタと足音がする。この部屋には僕以外には誰もいないはずなのに。天井から軋むような音。遠くで「ドスン」という大きな音。テレビの中から女の子の叫び声がする。
助けて・・・・・・。
助けてあげなきゃと、僕は思う。
なにかに背中を突かれて僕は前のめる。光が交錯して目がくらみ、その後気がつくと僕は見知らぬ洋館の中にいる。
画面に映し出された億は混乱と恐怖で動けない。女の子はさっきまで僕が座っていたソファの上でポテトチップスを食べながらホラー映画を見ている。
了
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