第四百七十話_short オニハソト [horror(戦慄)]
そう言えば、今日は節分なんだ。
コンビニに貼られたポスターを見てはじめて気がついた。日本の伝統歳時というものの多くが律儀に守られているのは良いことだなぁと思う反面、自分自身はあまり気にも留めていないことに気がついて、いかんいかんと自省する。それに……こういうものの多くを継続させているのは、コンビニで売っている巻き寿司や豆セットであることにもなんとなく違和感を覚えたりもする。
うちはまだ子供がいるから豆まきをしたりしているけれども、他所はどうしてるんだろう。
会社からの帰り道、最近はほとんどマンションばかりなので様子がわからないのだけれども、昔からある一戸建ての前等を通ると家の中から「鬼は外! 福は内!」などという声が聞こえてきて、ああ、やっぱりやってるんだなぁとほっこりした気分になった。しばらく行くと、古いアパートからも同じような掛け声が聞こえるので、ああ集合住宅でもやってるんだなと目をやると、外に鬼の面をつけた男がいて、二階の窓から母子が豆を投げつけている。ははぁ、お父さんも大変だな。一戸建てなら庭でできるんだろうけれど、アパートだとああいうことになるんだな。ほほえましくもあり、なんだか哀しいような気もした。
うちもやってるのかなぁ? 去年はどうだったっけ? そうそう、俺は帰りが遅くって隆はもうベッドに入ってた。佳子に文句を言われたっけ。
「あなた、もう早く帰ってって言ったのに! 鬼の役をしてほしかったのよ!」
そうそうそう言って怒られたんだっけ。
「そんな帰りの遅い鬼は、次は家の中に入れなくなっちゃうわよ!」
ちょっと遅かっただけで鬼扱いするなんて。しかしまぁ、昔の人はよく考えたものだ。鬼を家の中から追い出して、福だけを呼び寄せるなんて。それで本当に家の中がよくなるのならいいけどな。
そんなことを思い出しながらようやくマンションに着いた。エレベーターを上がり自室のドア前まで行くと、中から声が聞こえた。
「鬼は外! 福は内!」
ドア越しなのであまりよくは聞こえないのだが、どうやらうちでも豆まきをしているようだ。
「鬼は外! 鬼は外!」
妻と息子の隆でやっているのだろう。
ドアには鍵がかかっていたので鞄から鍵を取り出して開けようとしたが、ドアが開かない。
なんだ? どうなってる? 呼び鈴を押してみる。
ピンポーン! ポンポーン!
「鬼は外! オニハソト!」
誰も反応せず、掛け声だけが聞こえてくる。
「あら? あなた、どうしたの?」
突然後ろから妻の声がした。
「なんだお前。中にいるんじゃなかったのか?」
「うん、ちょっと買い忘れがあって……」
妻が鍵を取り出して開けようとするがドアは開かない。
「どういうことだ? 鍵が壊れたのか?」
「おかしいわねえ。どうなってるのかしら?」
「呼び鈴を押しても出てこないんだ。隆、中にいるんだろう?」
「隆? いいえ、あの子はまだ塾から帰ってないはずよ」
「でも、家の中で叫んでるぞ?」
鬼は外! オニハソト!
「どういうこと? もう帰って来たのかしら?」
「おい、隆! 開けてくれ!」
すると後ろから隆の声がした。
「ママ、パパ、何してるの?」
「なんだ、隆。お前もなかじゃぁなかったのか?」
鬼は外! オニハソト!
じゃぁ、家の中で叫んでいるのはいったい?
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