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第五百二十話_short 本当の恐怖は [horror(戦慄)]

 ……この映像は、とある田舎の廃村で発見されたビデオに収録されていたものである……

 映像は、三人の若者が山奥にある廃村に入っていくところからはじまっている。うっそうとした、そう、ちょうど樹海のように生い茂った樹木の間に細い山道があり、それを抜けると急に視界が開け、朽ち果てた家が建ち並んでいた。

「なんだか気持悪いわ」

 メンバーの一人、唯一の女性が言った。

「大丈夫さ、ただの山村だ」

 先頭を歩いている男が振り向いて答えた。

「いや、俺もなんか変な予感がする」

 ビデオカメラを回しているらしい男の声。

 昼間なのに夕方のような薄暗さは、天気のせいだと思われるが確かにあまり気持ちのいいものではないようだ。カメラは村の家々を順番に訪ねていく彼らの足跡をとらえていた。朽ち果てている以外はとりたてて変哲のなさそうな木造建築の建物は多くが藁ぶきの屋根を乗せていて、中には天井に大きな穴を開けてしまっている家もあった。奇妙だと言えなくもないことは、どの家も玄関口になにか魔除けのお札のようなものをいくつも貼り付けていることだった。だが、こんなお札は日本ではどこかの神社ですぐに手に入るようなものであったから、なにかの異変を示すものだと彼らは思わなかったようだ。

 やがて陽が落ちて、彼らは集落の中の最も大きな家で一夜を過ごすことに決めたようだ。その家は、おそらく村長の家ででもあったのだろうか、立派な門を構えた二階建ての大きな藁ぶき家だった。

 家の中で見つけた囲炉裏に火を起こした彼らの姿があった。ゆらゆら揺れる炎に照らされた彼らは英王だけを見れば妖気を感じさせるものがあったが、炎の前ではしゃぐ彼らの声がそれを打ち消していた。

 次に映し出されたのは暗闇の中で起き出す彼らの姿。

「なんだ、いまなにか変な音がしなかったか?」

「いや、あれは風邪の音だ」

「風邪なんかなかったぜ」

「いやだわ、寒気がしてきた」

「ほら、やっぱり。あれはなにかの声だ」

 ビデオには収録されていないが、彼らの耳にはなにかの声が聞こえていたようだ。「様子を見てくる」と一人が部屋を出てえいく。後ろ姿を映し出すカメラ。

「どうしたのかしら? 戻ってこないわ」

 不安げな女の声は、既に長い時間が経過したことを表していた。

「見てこようか」

「嫌。私を一人にしないで」

 結局二人揃って最初の男の後を追う。懐中電灯の明かりを頼りに二階に上がっていく二人。ギシ、ギシッと床が軋む。

 足元が映し出される。そこにはなにか獣の死体が干からびて転がっている。乾いた血糊。ライトが周りを照らすが、女の姿がない。

「おい、どこ行った! マリ。ふざけてるのか? おい!」

 カメラの男が必死に呼ぶがマリとyばれた女の姿はない。そして壁には朱色で描かれた気持ちの悪い印があった。後ずさりするカメラ。

「おおい、マリ! 信二! みんなどこ行ってしまったんだ?」

 カメラは大きく揺れながら階下を目指す。突然、大きく揺らいで暗転。

「ここは……? 俺、落ちたのか?」

 カメラが頭上に開いた穴を映し出す。

 ガサッ!

「ヒエッ!」

「シッ! 俺だ、信二だ」

「なんだよ、どこにいたんだ」

「ここは地下室だ。なにかの儀式が行われていたようだ」

 見ると祭壇のような物をいくつもの箱が取り囲んでいる。 何かの骨が転がっている。

「なぁ、マリが消えた」

「消えたって? そんなバカな」

「本当だ。二階に上がったときに・・・・・・・」 

 きえーっ! 何かが叫んでライトが消えた。カメラが転がって映像が乱れた。

「おい、大丈夫か? マコト!」

 信二が納戸呼んでもカメラを回していたマコトの姿はない。床に転がったカメラが不安そうな信二の姿をとらえている。

「マコト! マリ!」

 交互に叫ぶが、反応はない。

 信二は気が狂ったように階段を探し、一階に上がっていく。マリ! マコト! と叫びながらすべての部屋を探しまわる信二。みんなどこだ! どうなってる! 懐中電灯の明かりは余りにも頼りなく、しかも電池が少なくなったのか、次第に明るさを失っていく。

「あ……ああー……」

 床に崩れ落ちる信二。そのとき何者かがギャーっという獣めいた叫び声をあげながらカメラの前に現れて画像が乱れる。暗転。暗闇の中でガサガサという怪しい音。床に転がった懐中電灯が突然薄暗く瞬いて、壁に張り付いた血まみれの信二らしき姿を映し出す。しばらくそのままの映像が続いて突然切れる……。

 ……これは真実なのか? 三人のうち生き残った者は一人もいない。数ヵ月後にただビデオカメラだけが発見された。

 最初と最後のタイトルだけは編集者がつけ加えたモノだと記されてビデオが終わる。

 廃村でいったい何が起きたのか? これは真実なのか?

 だが、最も恐ろしいのは、最後の一人をカメラで撮ったのはいったい誰かということだ…………。 

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                      了



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