第六百三話_short 見にくい私 [ordinary day(日常)]
毎日長時間パソコン画面と格闘するような仕事を続けているうちに、気がつけば視力がかなり落ちていることに気がついた。もともと視力が悪く、コンタクトレンズを装着しているのだが、それが合わなくなってしまっているということだ。
視力の衰えに気づいたのは、もちろん見えにくさを感じるようになったからだが、それ以前にパソコンに取り組む姿勢が変化していたことにはあまり気がつかなかった。
通常、パソコン画面と顔の距離は三十~四十センチほど離れているものだが、画面が見えづらいので顔を近づけて見る。目が悪くなるに従ってどんどん顔は前に出て、いまでは画面の十センチくらいまで近づかないと文字が読みづらくなっていたのだ。これは相当辛い。肩どころか首まで凝ってしまう。しかし、こんなになるまで視力の衰えに気がつかなかったなんて。
いや、気づかなかったわけではない。見えづらいから見えるようにしていただけだ。
習慣というモノは恐ろしいもので、毎日少しずつ顔が画面に近づいていくものだから、自分自身では姿勢がおかしく内容ていることに気づかなかったのだ。
「山本さん、もしかして見えづらいの?」
隣の同僚はずっと以前から私の姿勢が奇妙だと思っていたらしい。あまりにもおかしくなってきたのでたまりかねて訊ねてきたそうだ。
「眼鏡をかけるとかしたほうがいいんじゃあないの?」
こんな時、コンタクトレンズは困る。眼鏡の代わりにレンズが入っていることを他人はわからないからだ。
「ううん、もうレンズが入ってるの。でも度数が合わなくなったのかなぁ、最近とくに見えにくくなってて……」
私は同僚に顔を向けて言ったのだが、彼女はいきなり顔を反らして言った。
「ちょっと、山本さん、そんなに近づかなくても……」
言われて気がついた。同僚の顔と私の顔は十センチも離れていないのだった。
了
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