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第六百三十七話_short 子猫 [ordinary day(日常)]

 交差点の歩道に据えられている生け垣の当たりを通り過ぎようとした時、かすかな鳴き声を聞いたような気がした。

 子猫? 

 消えそうな声は確かに子猫の泣き声だと思った。あまりにも微かすぎて、空耳かとも思ったが、耳をそばだてながら生け垣の周りを一周してみると、泣き声がはっきりと聞こえるところがわかった。あまり手入れがされているとは思えない草むらに首を突っ込んでみると、いた。白地に二色の模様が入った三毛猫だ。それも生まれたてのようだ。捨て猫? いや、野良猫がここで産み落としたのだ。母猫は見当たらないが、見捨ててしまったのだろうか? それとも餌を探しに出かけているだけだろうか? 私の気配に気づいたのか、白い子猫が草むらから這い出てきた。一匹だけ? いや、もうひとつ声がしている。奥から黒いのが這い出てきている。

 まだ目も開いていないほどの子猫が何かを訴えて一生懸命に声が涸れるほど鳴きながら私に近づいてくる。どうしよう。連れて帰る? いやいや、ウチには犬がいるし、猫もすでに二匹いる。これ以上増やすのは無理だ。

 空を見上げると電信柱にカラスが留って見下ろしている。まさか。子猫を狙っているのか? カラスは何度も何度も上空を旋回しながらこちらの様子をうかがっているように見える。

 私が子猫の前に佇んでいると、何人か通行人が覗きこんでくる。そのうち三人ほどがこの場所を動けなくなって、一緒になってどうしようかと悩みはじめた。

 ひとりがどこかから段ボール箱を見つけてきて子猫を入れてやる。そうしないと子猫たちはどんどん這い出て生垣から転落してしまうのだ。歩道に出てしまうと人や車に轢かれかねない。段ボールごと生け垣の隅において、これもどこからか見つけてきた瓶の蓋に水を入れて置いてやる。これでしばらくは安全だろう。段ボールは半分生垣から出ているので見つかりやすいから、きっと誰かが拾ってくれるに違いない。

 保護して連れては帰れない私はできるだけのことはやったのだと自分に言い聞かせてその場を離れたのだった。

 

 気がつくと草むらに中にいるようでした。目がよく見えないのは、生まれたばかりだからなのでしょう。なんとなく音や気配でなんだか恐ろしい場所に閉じ込められているように思いました。すぐ近くには兄弟がもう一人いるのがわかりました。

 私は一生懸命お母さんを呼びました。

 お母さーん、お母さーん! 

 いくら呼んでもお母さんは来てくれません。もう鳴き叫ぶのに疲れてきたころ、明るい方向になにか暖かい気配を感じました。

 だれ? なに? 私はわからないままにその方向に進みました。これできっと助かる。そこにいる存在がわたしたちを助けてくれる。そう思うと少し幸せな気持ちになってきました。

 みゃーみゃー言いながら進んでいくとついに明るい場所に出て、そこにはお母さんとは違う何か大きな生き物がいて、私を見ているようでした。

 だれでもいいから助けて! わたしたちを安全な場所に連れてって!

 わたしたち二人はなおも鳴き続けました。

 そのうちわたしたちは大きな箱らしいものに入れられ、元の草むらのところに置かれました。 わたしはゾクッとしました。こんなところに入れられたんじゃ、どこにも行けない。この箱から出られなければ、恐ろしいものが来ても逃げられない。

 本能的にそう感じたのです。そしてその予感は当たりました。

 わたしたちを箱に入れた存在は間もなく立ち去ってしまい、わたしたちだけになると、別の存在が高いところから様子をうかがっている気配を感じました。なにかわからないけれども、それはたぶん恐ろしい存在。

 わたしたちは元の茂みの中に隠れたかったのですが、箱に入れられているのでどこにも行けません。箱の隅っこで小さくなっていましたが、やがて空から黒い影が降りてきて……。 

                      了


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