第七百四十四話_short 息子のお仕事 [suspense(不安)]
就職もできずにプー太郎をしていた息子がようやく仕事にありついたという。
「で、どういう仕事なんだい?」
普段から会話の少ない家庭である上に、少しひねくれてしまっている息子は家でほとんど口をきかない。
「……言いたくないよ」
「言いたくないって……就職できたんだろう? どんな仕事なのか教えてくれてもいいじゃあないか」
子供の仕事内容くらい父親として知っておかないとと思うから食い下がった。
「言うの……恥ずかしいんだよ」
「何を言う。仕事に卑賤などないんだ。恥ずかしがらずに言っていいんだよ。じゃぁ、たとえばどんなことしてるんだい?」
息子は面倒臭そうに答えた。
「……電話をかけるんだよ」
「ほう、電話でアポとりか。営業なんだな?」
「営業……まぁ、そうかな。そう、アポとりなんだ」
「相手はどこかの会社の営業部とかか?」
営業部、営業部? 息子は二、三回そう呟いて、ようやくその意味を飲み込んだ。
「ああ、違うね。相手は個人だよ」
「ははぁ、電話販売なんだな。何を売ってる?」
「いや、何も。売るんじゃあなくって、もらうんだ」
「もらうって何を?」
「お金に決まってるじゃないか」
「お金? 何も売らないのに?」
「だって売るものなんてないんだもの」
「売るものがないって……モノじゃあなくてサービスとかではないのか?」
「サービス、サービス……サービス……ああ、そんなようなものかも」
「そんなようなって、どんなサービスなんだ?」
息子はどんどん不機嫌な顔になっていく。
「もういいじゃん。話したくないよ」
「そんなこと言わずに、もう少し教えてくれよ」
息子は判ったと目で言ってから言葉にした。
「あのさ、お金持ちの年寄りに電話するんだよ。オレ、借金つくってしまって困ってるって。そんで受け取り場所とか決めてさ、別の者に取りに行かせるんだよ。大金もって孫のためだと思って大金を持ってくるのさ。そんで孫を助けていい気分になるのさ。そう、俺たちは年寄りにいい気持ちをサービスしてるんだ」
息子はそう言い終わるや否や、自分の部屋に向かった。
「なるほど、それはいいことをしてるんだな……」
息子が立派な仕事に就いたことに満足した私は、飲みかけのビールを口に運んだ。
了
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