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第五百六十一話_short 癒しの幽霊 [horror(戦慄)]

 中世期に描かれた幽霊には足があったという。日本でも江戸中期以前の幽霊には足があって、生前と同じ姿で描かれている。 

「つまり、身近な家族や友人が亡くなってからも傍にいて欲しいという願望の表れなんですよね」

 文化人類学者がテレビの中でそう言った。

 誰だって愛する人や親しい人間がいなくなってしまうことは辛いものだ。亡くなってしばらくは現実として受け入れ難くできれば間違いであってほしいと嘆く。その結果、夢に現れたり、現の中でも夢のように現れるのかもしれないし、そうじゃなくとも願望としてそのような姿を描いたりしてきたのだ。

 だから亡き人の姿は現在描かれる幽霊のような恐ろしいものではなく、残された者を癒してくれる存在として生きているときと同じ姿で描かれるのだ。

「当たり前だ」

 私はそう思った。私は幽霊など信じないし、だから怖いとも思わない。死とは無に帰するということだ。死んでから魂だけがこの世に残るなんてあるわけがない。現実主義的かもしれないけれども、科学の時代には考えられない妄想だ。

 それでも幽霊や霊魂を恐れる人々が私には不思議に見える。なぜ有り得ないものを恐れるのかと。

「なあ、母さん」

 私は母に向かって同意を求めたが、むろん母は答えてくれない。答えるわけがない。

 三年前に亡くなった母の亡骸は、現代の保存技術によって美しいままに保たれてはいるが、魂もなくただ躯として私の部屋の椅子に腰かけるように置かれているだけなのだから。 

幽霊.jpg 

                      了


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