第五百八十一話_short 右か左か [literary(文学)]
右という文字と左という文字は、兄弟みたいなものだとずっと思っていた。
ところがどうやらそうではないらしい。まずその書き順なのだけれども、右は払いが先、左は横棒が先にかかれなければならないらしい。そんなことは小学校で習ったはずだ! 書き順の先生はそう言うが、そんな昔のことは忘れてしまった。なんで違うんだ? 訊くと答えが返って来た。
右と左の冠見たなのは同じだと思っているだろう? だがそれは違う。よく見てごらんなさい。右の文字は払いよりも横棒が長いだろう。そして左は横棒よりも払いが長いのだ。
なんだ先生、そんなの書く人の癖なんじゃないの?
そう思うならもう一度、ここの書いてある左と右の文字を見比べてごらん? ほら、長さが違うでしょう。ね、そうなんだよ、それぞれ短い方から先に書くんだ。
あ! ほんとうだ。長さが違う……知らなかったまぁ。いや、気づかなかった。そんなこと習ったんだっけ?しかし先生、形が違うのはわかったけれども、だからと言ってなんでわざわざ書き順を変える? 間違いのもとじゃないか。同じ西といてくれればよかったのに。
するとまたすぐに答えがあった。
あのな、長い方を先に書いてしまうと、次のアクションまで距離があるだろう? ところが短い方を先に書けば、ほら、すぐ近くに次の書きはじめがあるではないか。この方が合理的だということで、ある偉い先生がそう決めたんだ。
なるほど。左の払いを先に書いてしまうと、横棒まで少し遠い。右だって横棒を先に書くと払いの書き始めまでが遠い。なるほどなぁ! うまく考えられてるなぁ!
たとえば、「右」は「有」「存」「在」「布」なんかが仲間だし、「左」は「友」が同じ部署だろう? どうだ?
なるほど。これはわかりやすい。だけど……左の友だちは友だけ? 他にないの?
そうだな。右のほうはいろいろあるが……
そんなことだからダメなんじゃあないのか? 私は急に腹が立ってきた。
右、右って、これまでのことにしがみついてばかりじゃあないか。そんな保守的な考え方が世の中を停滞させるんだ! いいか、世界は技術革新で発展してきたんだ。人間の考え方もどんどん革新していかなければいけない。どうしてみんなそれがわからないんだ?
おいおい、ちょっと待ちたまえ。何を言ってるんだ?
右と左の話だよ! 右翼と左翼、どうして左には友が一人しかいないんだ? 間違ってるよ!
了
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