千一話物語beyond [literary(文学)]
千一話物語beyond
びよーん!
で 終了 してしまいましたよ。
ここは、終了していますよ。
千一話物語777は、777話では飽き足らず、780話というキリのいいところまで引っ張って、
前ブログ1001話と合わせると1781話という中途半端な数字で終了!
しかもその終わりが「びよーん!」とは?
謎は謎を呼ばず謎のまま……
近々「千一話物語ビヨンド」のタイトルで再開させようと・・・・・・
はぁ? ビヨンド? それで「びよーん」?
また駄洒落かい?
と思っていたら、スタートレックの最新作(2016年7月後悔予定)の原題は「Star Treck Beyond」だそうで。
その公表に先駆けて構想していたのですが……
次回作は、遠い宇宙の未来の話! ってそれはスタートレックのお話ですが……
いつかそのうち、再開するかもしれない、しないかもしれない「千一話物語ビヨンド」、ご期待なく。
了
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第七百八十話_short番外 びよ~ん [literary(文学)]
もう、三日間もここにいる。
なにもない真っ白な部屋。白い壁と白い床、天井。家具もテレビもない。誰もいないし、誰もこない。
ここは病院? いや、病院なら医者や看護婦がいるはずだし、なんとなく昔からなじみのある臭いがする。たぶん私が暮らしてきた部屋だと思う。でも、なにもないし、誰もいないのだ。不思議と原も空かないし、便意もない。いったいどうなちゃったんだろう。不安になって眠くなる。いつしか眠ってしまうと不安は消えてしまうが、記憶もあいまいになる。
たしか……三日前に真っ白な空間を浮遊していたような。
そうだ。なにかが終わってしまったのだ。
自分から終わらせたのではなくって、私の意思とは無関係に終わってしまったのだ。だから私は真っ白な世界に堕ち込んでしまい、私自身も真っ白になってしまった。
私が終わったのではなくって、世界が終って世界が私を終わらせようとしているのだ。
……世界が私を終わらせようとしている? 私の意思とは関係なく?
それでいい、それで当然だと思っていた。だってどう仕様もないでしょう? 世界がなくなってしまったんだから。私がいる場所もなくなってしまったということで。あれ? でも私はまだいなくなっていないのはなぜ?
人間はいつもなにかの枠の中で生きている。
そう、たとえば地球の、アジアの、日本の、この街の、この社会の、この家の中で生きている。ということは、逆にいえばいまこの枠の中でしか生きられていないということだ。
置かれた場所で咲きなさい。
誰かがそう言ったけれども、置かれた場所でしか生きられない。
日本にいるのにアメリカにいるようには生きられない。
だから私はいつも誰かの、なにかのせいにして生きてきた。
いいことや楽しいことは自分で求めているくせに、悪いことや辛いことはぜんぶなにかのせいにして、誰かのせいにして生きてきた。だから今回のこれも、世界がこんなことになっちゃったから、仕方がなく私も消えてしまう、なんてね。
でもなんだかわかってきたような気がする。
世界がなくなってしまった今、私は無の世界のせいで生きられなくなっている? 違う。生きている。
誰かのせいじゃなく、なにかのせいじゃなく、私自身の意思で、力で、考えで、反対に世界を作ってしまえるんじゃあないかしら。
この白い世界にはなにもないと思っているけれど、本当にそうなのかしら?
自分自身で、こうあってほしい! こうありたい! そう信念を持つだけで、もしかしたら、なにかが見えてくるのかもしれない。誰かのせいでも、なにかのせいでもなく、自分自身で。
私は思い切り体を千路メタ。膝を曲げ、腰を折って、できる限り渾身の力が体内に集まるような姿勢をとって身体の真ん中に力を集中させた。そして全身をばねにして飛び上がるのだ。そうすればきっと、白い世界からジャンプできるに違いないとそう信じて。
びよ~ん!
了
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第七百七十九話_short番外 ホワイトアウト [literary(文学)]
もしかしたらここは、天国? それとも地獄?
なにもない、何も存在しない空間にふわふわ浮かんでいるように感じられる。そう、壁も、天井も、地面さえないから立っていられないのだ。宇宙遊泳ってこんな感じなんだろうな、きっと。
実優はなにもないところをふわふわしながらぼんやりと考えていた。
天国か地獄かって言えば……全然苦しくも怖くもないからここはたぶん地獄なんかじゃない。でもお花畑もないし天使もいないから天国でもないんだわ。
真っ暗な部屋を経験したことはあるけれども、こんな真っ白な世界ははじめてだ。スキー場で白銀の世界を見たことはあって、それと少しだけ似てはいるけれども、それとも違う。ほんとうに真っ白なんだ。
おととい南へ南へと歩き続けていたら唐突にこういうことになった。なにもなくなってしまって、近くにも遠くにもなにもなくなって、いったいどうなったのかしらと思った。でもすぐに、ああ、物語りが終わったのだと悟った。
最後の物語りでは誰かと一緒に逃げるはずだったのに……ああ、あの人は誰だったのかしら? 名前も顔も思い出せない。でも、なんだか大切な人だったような気もする。でも、思い出せないくらいだからそれほどでもなかったんだわ、きっと。
実優はぼんやりしながらも頭の中では様々な妄想めいたイメージや言葉が浮かんでは消える。
私、死んでしまったのかな?
物語が終わるということは、その登場人物も終わってしまう、つまり死んでしまうってことなんじゃないの? じゃぁ、ここにいる私はなに? 生きているとしか思えないし。
どうして世界と一緒に消えてしまわなかったのか、実優には理解できなかった。こんななにもない世界で一人っきりで生きていくくらいなら、みんなと一緒に消えてしまった方がよかったのに。それとも? いまから少しずつ消えていくのかな? いつか見た映画のように、身体がだんだん透明になって、この白い世界の中に溶け込んでいくのかもしれないな。
何度も同じようなことばかり考えていて、どのくらい時間が過ぎたのかさえ分からない。数分七日、数時間なのか、もしかして数日? 数か月? 知らないうちに何年も過ぎてしまったのかもしれない。そう思うと少し怖いような気持になりかけたが、本当は怖くも恐ろしくも、悲しくも寂しくもない。反対に楽しくも面白くもないのだけれど。
たぶんすべての物事を受け入れて達観した状態ってこんな感じなんだろう。別に死んでもいいし、死ななくてもいい。かつて楽しいことや辛いことがあったなんてことも、もはやどうでもよくて。ただここにいるというそれだけのこと。消えてしまうかもしれないし、消えてしまわないのかもしれないし。
これが悟り? 悟りだとすればそれは新たな世界のはじまりなのか、それとも終わりなのか。
実優は自分が何年生きてきたのか、若いのか老人だったのか、それさえもわからなくなって、ただふわふわと空中を漂うばかりなのだった。
了
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第七百七十八話_short番外 希望 [literary(文学)]
あれ? なんだここは?
気がつくと僕は知らない場所に立っていた。知らない場所?
いや、そうではない。ここは、見たこともないところだ。
まっ白。
敢えて言うなら白壁に囲まれた空間。でも、白い壁があるわけではない。白い空間はどこまでも続いている。
さっきまであった道や木々や空はどこに行ってしまったんだ? なんなのだ、ここは。
僕はだんだん怖くなってきた。なにもない。そして誰もいない空間。なぜ僕だけがここにいるのか。
思い出した。僕はとんでもなく遅刻したのだ。おととい、まるで三月ウサギのように駆けずり回っていた僕は、大事な最終話に遅れてしまったのだ。
そうか。ここはそれが終わった場所なのだ。 そういえば昔、映画で見たような気がする。お芝居が終わってしまってすべてが撤去された空舞台。
空舞台であれば、大道具はなくなってしまっても、舞台そのものはなくなってしまわないはずなのに、ここは大道具どころかすべての存在が無になってしまっている。つまり、世界そのものが消えてしまったのだ。
やはり本当だったのだ。千一話物語りが終わってしまったということは。
僕は昨日、実優と出会うはずだったのだ。彼女とともに最後の時間を演じるはずだった。だが間に合わなかった。たぶん、実優は一人でどこかへ旅にでも言ってしまったことだろう。寂しいと思っただろうか。それとも僕の存在などなかったかのようにふるまったのだろうか。
大切な最後のステージに乗り遅れたばかりに、僕はこの無の世界に取り残されてしまったのだ。
だが、仮に間に合っていたとすれば? どうなっていたのだろう。少なくともここに取り残されたりはしなかっただろうが、消えてしまった世界とともに消滅したに違いない。
さあどうするか。僕は頭を抱え込んでしまった。
想像してみるがいい。なにもない、誰もいない世界にただ一人存在しているということを。
これは生きているということなのか? それとも死んでいる? いやいや、少なくとも僕は生きている。周囲が死んでしまった? いや、消えてしまっただけ。壁もないのに目の前は真っ白。暗闇じゃないだけましだとも言えるが、しかし真っ暗闇と真っ白い世界と、何が違うというのだ?
なにもないからかなり遠くまで見えているはずなのだけれども、ただただ白いだけでなにも見えない。もし何かがあったら、誰かがいたら影くらいはわかるはずなのに。
僕はどうしようもなく歩きはじめた。
歩いても歩いても白いばかりで、前に進んでいる気がしない。でもなにもない白い地面を歩いていることは実感できているので、たぶん歩み進んでいるのだと思う。どこまで行けば、どのくらい歩けばなにかが変化するのだろうか。
僕は前に進むことできっと何か変化が訪れるに違いないと信じて、とにかく歩き続けた。いつかまたこの世界が現れるに違いないという微かな望みだけを抱いて。
了
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第七百七十七話_short FINE [literary(文学)]
よく晴れた朝。実優はいつもと同じように玄関の扉を開けて外に出た。
なにも変わらない、なんということのない一日のはじまり。ただ0冬らしい透明な青空がなんとなくいつもよりも心地よいと感じられて、それが今日という日に相応しいように思えてうれしかった。
どこという当てもないが、一日で行けるところまで行ってみたいと思った。
一日で行けるところといっても、飛行機に乗れば北国でも南国でも海外でさえも、どこにだって行けてしまいはするが、そういうことではない。何より航空券を買うようなお金もない。小さなリュックタイプのタウンバッグの中には小銭の入ったお財布が入っているだけだ。電車に乗ってもいいが、できればずっと歩いてみようと思った。疲れたら休めばいい。お腹が空いたらどこかお店に入ればいい。
どっちに行こう。どの方角に? なにもアイデアは浮かばなかったけれども、普段とは違う方向……南に向かって歩き出した。歩いているうちに身体がほかほかしてきて薄手のダウンジャケットを脱いだ。七分丈のカットソーになると、風が心地よく腕に当った。
「ファイン!」
普段使う言葉ではないけれども、美しい、あるいは素晴らしいという意味の英語が頭に浮かんできて、誰もいないのに口に出してしまった。
「ファイン、ファイン!」
この言葉を言うことによって、さらに心地よさが増すような気がした。
今日は二千十五年十二月七日、月曜日。平日。会社は休みではないのだけれども、行くのを止めた。だって今日は特別な日なんだもの。いつもどおりに過ごすという選択肢もあったのだが、それではあまりにも妻らなすぎると思ったのだ。特別な日にはやはりいつもと違う特別なことをしなけりゃ。
映画を観る。美術館に行く。買い物をする。ジョギングをする。家でごろごろする。
いろいろ考えたけれども、どれもさほど日常と変わらないように思えた。
そうだ、いままでしたことのないことをしよう! そう思いついたのがこの生き先のないミニトリップだった。生き先も決めずに、目的もなくどこかに行ってみるなんてことを、いままでした覚えがない。なんとなく京都へとか、なんとなくお買い物になどという目的の薄い行動は経験住みだが、今回のようなまったく無目的な行動ははじめてだったと思う。
特別な日……今日はなんだって特別なのかと訊ねられたら、よくはわからないけれども、と前置きをしながら説明しなければならない。天変地異があるわけでも、流星が落っこちてくるわけでも、あるいは私自身が病に冒されてしまったわけでもないのだけれども、とにかくこの世界が今日で終わるらしいのだ。
それを知っているのは私だけかもしれない。なぜならこのことはニュースでも言わなかったし、周囲の人を見ていても誰もそんなことを言っていない。
もしかしたら私の頭がおかしくなってそう思い込んでいるだけなのかもしれない。いや、できればそうであってほしい戸mお思うのだけれども。
とにかく今日でこの世界は終わってしまう。
人間、今日が最後の一日だとわかったら、いったいなにをするのだろうか。私のように目的なくさまようのだろうか。あるいは愛すべき人と最後の一日を過ごすのだろうか。
残念なことに、いまの私には最後の一日を一緒にすごすべき人はいない。そしてまた仮にいたとしても、最後の一日を過ごそうなんて言ったら、なにを妄想してるんだ? なんて言われてしまうのかもしれない。
もうずいぶんと歩いてきた。一時間あまるでも案外遠くまで来られるものだ。既に着たことのない見知らぬ街並みを私は歩いている。今日の一日は、いつ、どのようにして終わるのだろうか。想像もつかないが、確かなことは、うっすらと汗を流しながら知らない街を青空を感じながら歩いているということだけだ。
「ファイン!」
私はもう一度声に出した。これが最後の言葉だとも思わずに。
~FINE~
了
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第七百七十六話_short 三月うさぎ [literary(文学)]
「たいへんだ。遅刻してしまう」
僕は遅刻常習犯だ。決められた時間に着くということが何故だか苦手なのだ。
絶対に遅れないように! そう言われると非常に緊張してしまい、頭の中では三十分前に家を出れば間に合うってことが分かっているのにそれができない。念のためにと思って一時間も前に家を出ると、途中でまだ余裕があってあまり早く着きすぎるのもいやだと思って銀行に寄ったりコンビニで時間をつぶすうちに、気がつくとぎりぎりになっており、慌てて走るのだが結局五分遅れてしまう。
そんなことにならないようにと早めに起きて家で待機する。もうすぐ出かける時間だなと思いながらトイレに行ったりちょっとした用事を済ませていると、しまった!出かける時間を十分も過ぎている! ということになる。
まんよくいい時間に家を出ることもある。ところがそんな時に限って電車がなかなか来なかったり、妙に信号に引っかかってしまったりして、予定より多くの時間が過ぎてしまうことになるのだ。
なんだか何かに呪われているのかもしれない。だいたいどうして他の人たちが約束通りの時間にきちんと行けるのか不思議でならない。
今日はとても大事な日だ。結婚式やお葬式と同じくらい大事な日なのだ。明日のお話をのがすともう金輪際出演することができなくなる。そう、この「千一羽物語+777」は明日で終わりなのだ。今日中に現場にたどり着いて台本を受け取り明日の本番に備えなければならない。それなのになんということか。今日中どころか、これでは明日の本場にさえ間に合いそうもない。
やっぱり呪われている。普段から遅刻常習犯の僕は、ここぞという大事な日にはおおよそ遅刻するか、下手をすれば逃してしまうほどの失態を犯してしまうのだ。
現場への道を駆けながらまるで自分が不思議の国のアリスに出てくる三月ウサギにでもなったような気がした。「大変だ! ティータイムに遅れてしまう!」叫びながら走る三月ウサギ。お伽噺のなかでなら、そのようなキャラクターはかえってキャラが立って重要な役どころになるのだけれども、現実は違う。ただ単に出演を逃してしまうだけだ。出演できないとなればもうそれは存在していないのと同じことなのだ。
大変だ。最後のお話に出られない、つまり存在できないということは、もはやこの世にいないのと同じことなのだ。僕は泣きそうになりながら、それでもただ明日のために走り続けるのだった。
了
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第七百七十五話_short 最終回? [literary(文学)]
「もう……もうすぐ終わりなんだ」
ベッドに横たわった爺さんが苦しそうに言った。
「終わり? なにが終わるんです?」
また寝ぼけておかしなことを言い出したなと思いつつ、それでも無視できないなと思って僕は訊き返した。
「なにがって……そんなことわかっているだろう? そんなこともわからないような人間に育てた覚えはないぞ」
爺さんとは血のつながりこそないが、もう長い間親子のように世話になってきた。爺さんは仕事上の師匠であると同時に人生の師匠でもあるのだ。
「いや、わからないな。いったいなにが終わるというのか、いやたぶん、自分で終わらせようとしているんじゃあないのか?」
思いやりに欠けた僕の言葉に爺さんは目を瞑った。そうなんだ。なにが終わるにしろ終わらないにしろ、ここはそれは間違っている、あなたはまだ終わらない、大丈夫だ、というような言葉を発するべきだったのだ。
爺さんは、癌とか糖尿病とか、はっきりした病に冒されているわけではない。だが、長年の無理が祟って身体のあちこちにガタがきて弱っているのだ。ここ数日間、一日のほとんどをベッドで横になって過ごす毎日を送っている。たぶnしばらく休養しさえすればまた元気を盛り返すはずなのに、気弱になってしまっているのだ。老人特有の「早くお迎えが」とか「もう楽になりたい」とかいう言葉の代わりに「終わりなんだ」という意味不明なことを根ごとのように言っているだけなのだ。
眠ってしまったのかと思っていたら、爺さんは再び目を開いて言った。
「お前はわかっているのに、そうじゃないふりをして……いや、そんなはずがないと自らを騙して事実と向き合おうとしない。それはあまりよい態度とは思えんな。お前らしくない。これまでどんなことにも正面から立ち向かってきたんじゃあないのか?」
今度の爺さんの言葉は僕の胸に突き刺さった。
そうだ。その通りなんだ。ほんとうは僕にもわかっていた。爺さんが最初に行った「もう終わりなんだ」という台詞は、僕が言ってもおかしくないものだった。なのにそれを言わないどころか、人の言葉でさえ否定しにかかっていた。
事実なんだ。
この世にははじまりがあれば、必ず終わりがある。人の生だってそうだ。いつか必ず終わるんだ。みんな本当は終わりに向かって突き進んでいくだけなのだ。だからとても美しい終わりにしなければならないと信じ込んで悩み続けるんだ。
急に人生訓のような思想が頭の中を巡りはじめた。
「ようやく飲み込めたようだな。しかし、今日で終わるわけじゃあない。明日もあるし、明後日もある。だがそこで終わる。お前はそのときどうするつもりだ? 最後の時をどのように迎える?」
爺さんの言葉もまるで禅問答だ。そんなこと聞かれても俄かには答えられない。まったくわからないのだ。
だが、終わりはもうそこまで来ている。爺さんが言ったように明日はある、明後日もあるが、そこまでなのだ。
何故だ? なぜ明後日で?
その問いは、なぜ人間は死ぬのか? なぜ寿命までしか生きられないのか? という問いに似ている。あらかじめ決められているだけのことだ。人間の死はいついつとはっきり決められているわけではないが、今回の終焉は最初から決められていることなのだ。
実際、この世界は一度終わった。しかし創生主の気が変わったのか、そこからまたはじまった。ただし期限付きで。その起源が明後日というわけなのだ。
千一話物語り。それがこの世界のバイブルだ。そして再会してからは+777という不可思議な数字が加えられた。だから千一話プラス七百七十七話の計である千七百七十八話となる明後日がフィナーレとなるのだ。
僕も、爺さんも、そしてこの世界に住むすべての者が明後日で終わる。
それでいいじゃないか。その後どうなるか? それはわからない。終わりは無。無は無。その後なんてありはしない。
そういうことだから、潔く身を納めたい。そうだよな、爺さん。
もはや言葉を発しなくとも爺さんにはわかったようだ。爺さんも僕を見ながら黙って頷いた。
まだちょいと早いが準備しておこう。別れの言葉を。
アディオス。
さようなら。
了
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第七百七十四話_short あのとき君が [literary(文学)]
若い頃に知り合った友人とは、長い年月会わない月日が流れたとしても、不思議なことにすぐに昔のままの関係に戻ることができるものだ。大学を出てすぐに田舎に帰ってしまった剛とは実に二十年ぶりの再会だ。
「本当に久しぶりだ。学校出て以来だものね」
実家の酒屋を継いだ剛は業界の展示会でこっちに来る用事ができたからと連絡をくれたのだ。
「そうだな、お前もたまには田舎に来てくれたらいいのに」
「子供はいくつになった?」
「おう、上の子は来年には中学生になるぜ」
「へぇ~もうそんなに?」
一通りの近況報告が終わると昔話に火がついた。
「しかし、あのときお前に言われたから俺は実家を継ぐ気になったんだもんな」
「え? 僕、なんか言ったっけ?」
「言った言った。絵描きになりたいっていう俺を止めたのはお前じゃないか」
「は? そんな覚えはないなぁ」
剛が言うには絵描きを目指すか実家を継ぐか悩んでいたところ、僕の言葉で吹っ切れたというのだ。若くして両親を亡くしていた僕の言葉が重かったのだそうだ。しかし僕にはそのような記憶は一切ないのだった。
「あのときお前に止められていなかったら、たぶん俺はとんでもない親不幸な人生を歩んでいたに違いないよ」
いや、むしろ逆のような気がする。あの頃、僕は音楽を目指すかサラリーマンになるか悩んでいた。
「そうだったかなぁ? 僕は、夢を諦めたか俺の分まで自分の夢を追いかけろって言うから弾みがついたんだ」
「へぇ? そんなこと言ったかなぁ?」
「そうだよ、君のおかげで今の僕があるんじゃないか」
二十年もの歳月は人の記憶を曖昧にする。いや、むしろ記憶なんて時の流れで書き換えられてしまうのかもしれない。自分は正しい道を歩んできたのだということを証明するために。間違えた道は選ばなかったのだと信じるために。
了
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第七百七十三話_short 蚯蚓子能納の考え方 [literary(文学)]
「いやぁ、本当は嫌なんですけどねえ」
ヘタうま漫画で知られる蚯蚓子能納が言った。漫画化なのにバラエティ番組でいじられキャラとして出演することの多い蚯蚓子は、かなりおかしなおっさんとして有名になってしまっているのだが、今日は珍しく真面目なトーク番組でしっかりとした自分の意見を話しているのだ。
テレビというメディアの恐ろしさを知っている者でさえ、この蚯蚓子は相当おバカで困った人間だと認識していたのだが、この日の番組を見る限りはそうでもないらしいことが伝わってきた。
「じゃあ、なんでそんな嫌なことをテレビでやるんですか?」
番組の主宰でもある佐知子が訊ねた。
「経緯はいろいろあるんですけどね・・・・・・」
そのきっかけとなったエピソードを披露した後、蚯蚓子が言った。
「だってその嫌なことを一回するだけで、普通のサラリーマンが一カ月働いていただくお給料くらいもらえるんですよ」
芸能人がそんな日銭のことを言うのはみっともないようにおもえるのだが、蚯蚓子が言うと、すごく尤もな話に聞こえた。
「だってみんな嫌なことやってお金もらっているじゃないですか。サラリーマンだって、毎日嫌なことをして月給貰ってるんだと思うんですよ」
お金のためになにかをするという発想そのものがいかがなものかという人もいるかもしれないが、実際のところ、生きていくためにほとんどの人が本当はしたくもないことをやっているということも否めない。
「でも、蚯蚓子さんは、そんな嫌なこと死なくったって、漫画で稼いでいるじゃないですか」
「……まぁ、そうなんですけどね、お金はいただけるならいただけたほうがいいじゃないですか。それでギャンブルだってできるんだし」
まったくもって正直な話である。しかし、その嫌なことっていうのがどのあたりまで嫌なことなのかにもよるのではないかしらん? インタビュアーをやっている佐知子はそう思ッて、さらに突っ込んだことを聞いてみた。
「じゃぁ、蚯蚓子さん、お伺いしますけど、お金のためなら何でもやるんですか?」
真面目な顔だった蚯蚓子さんが一瞬につものいじられキャラの顔に戻った。
「え? たとえばどんな……?」
「そうですねえ、たとえばカレーライス。ご飯の上にカレーの代わりに似たような臭いものがかかっていて、それを食べてとか……」
いつもの蚯蚓子が戻った。
「えっ? いやっ! それ? なに? 臭いって? まさかその、ウン……じゃないでしょうね……? ウンじゃなければ……」
「いや、新鮮なウン……です。今日はスタジオに用意しているそうです」
目の前に出されたカレーライスみたいなものが入った皿を眺めながら蚯蚓子が言った。
「で、これ食べたらいくら……?」
了
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第七百七十一話_short 猿の夜明け [literary(文学)]
人類が衰退する一方で、知能を上げた猿たちが各地で蜂起して世界を支配しようとしていた。
「お、おい、大丈夫か?」
猿の集団に追い詰められた俺たちは、街のはずれにある廃墟と化した団地の一室になんとか逃げ込んだ。相棒のトシは床に倒れ込んでいたが、その腕からは血が流れ出ていた。
「どうしたんだ、怪我したのか?」
室内に誰もいないか探索し終わった俺も床に座り込みながらトシに訊ねた。
「ああ、怪我はたいしたことない。だが、これはあいつらに噛みつかれた傷なんだ」
「噛みつかれた?」
一匹の猿に掴まれた腕を引き抜こうとしたときに、奴の牙が腕に刺さったのだという。
「だ、大丈夫か? しかし、奴らがゾンビじゃなくてよかったな」
言うとトシは無理に笑い顔を作りながら答えた。
「そうかな。奴らだってまるで映画で見たゾンビみたいなものじゃあないか」
「いやいや、噛まれたのがゾンビだったら、お前もゾンビになってしまうところだったんだぞ」
「なるほど、そうか……そうだな。ゾンビにはなりたくないよな」
猿であろうがゾンビであろうが、人類が滅びかけていることに変わりはないのだが、せめて現状の方が少しはましだと思いこもうとするために、俺たちはそんな話題で笑った。
しかし、猿に噛まれたというトシの腕は熱を持ち、みるみる悪化していった。部屋に残された冷蔵庫の中から発見しした食い物で腹ごしらえをして俺たちは短い夜うぃ過ごした。
夜明け方、俺が目を覚ますと、床に倒れていたトシは元気を取り戻したのか部屋の隅に立っていた。
猿に変身した姿で。
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了
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