第五百八十二話_short 合わせ鏡の恐怖 [horror(戦慄)]
合わせ鏡というものをご存じだろうか。たぶん知らない人は少ないと思うのだが、二枚の鏡を向かい合わせにしてお互いに写り込むように置くことによって、鏡の中に無限に映しされていくというものだ。
実際にやってみるとなかなか不思議な光景が現れる。その不思議さゆえに、さまざまな都市伝説もあるようだ。
たとえば合わせ鏡をしてある呪文を唱えると悪魔が現れるだとか、丑三つ時に合わせ鏡をしてはいけない、幽霊が現れるからとか、そういう類の話だ。残念ながら、悪魔の呪文を知らないのでやってみることはできないし、幽霊も怖いから丑三つ時の件もやってみたことはないのだが、ひとつだけやってしまったことがある。
それは、合わせ鏡のいちばん奥にある自分の姿を見る、というものだ。
合わせ鏡は、見る角度によって連続する姿はフレームアウトしてしまう。二枚の鏡自体も並行に向かい合わせ、できる限りその真ん中に立つ。すると鏡の画像は少しずつ小さくなりながら画面の真ん中に吸い込まれるように集約されていく。
鏡に映り込んだ自分自身も少しずつ小さくなりながら画面の真ん中に吸い込まれていくわけだが……。
私はいちばん奥に映っている自分の姿を確認しようとしたが、あまりにも無限に続き、その上最後の方は小さすぎて見えなくなってしまうのだから、結局見えやしない。
なんだ、見えないじゃないか。いったいいちばん奥の自分を見たら何が起きるというのだ?
ますます興味を持ってしまい、想像もたくましくなった。
もしかして、こうしている間にもいちばん奥の自分がこっちへ向かって近づいて来ているのではないかしらん? あるいは置くに行くほど少しずつ歳を取っていて、いちばん奥の自分はもう死んでいるとか。
考えているとなんだか恐ろしくなってもう止めようかと思ったその時、いきなり画面の中にもう一人の私がぬっと現れた。
「わっ!」
驚く私に、現れたもう一人の私が言った。
「何してるの、兄ちゃん」
双子の弟が割り込んできたのだった。
了
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