第六百二十六話_short 視力検査 [literary(文学)]
最近、歳のせいか富に視力が衰えてしまって、これはもう眼鏡かコンタクトを買わなければならないなと、近くの眼科を訪れた。かわいらしい受付のお姉さんに言われるままに待合でしばらく待っていたら、名前が呼ばれたので検査室に入ったのだが……。
どうもいけないね、この国の病院は。なっちゃあいない。というか、検査機が壊れているんじゃないの?
「はい、これは?」
きれいなお姉さんが小さな機械に目を充てて見えるものを言えというのだが、これが何の意味があるのだか。機械の中を覗くとCという文字がさまざまな方向に転がったように並んでいて、その開いた部分がどちらにあるかを言えというのだが、そんなもの、私には全部見えてしまうわけで、これでいったいなにを検査しているのだか。
「すみませんが、あなたの視力箱の機械では測れないようなので、ここに立ってあの壁にかかっている文字を見てもらえますか?」
きれいなお姉さんがそう言うので、言う通りにしたのだが、機械の中にあったのと同じようなCが壁にかかったポスターに描かれていて、それらは全て下の小さな文字まで見えるのだ。
「ええーっと、あと三歩後ろに下がってもらえます?」
お姉さんが言う。
「ああ、もっと下がってください」
もっと下がれ、もっと後ろへ、言われるままに移動していたら、私は店の外に出てしまった。
眼科の入口はガラス張りなので、店の外からでも室内のポスターは見える。私はどんどん下がって通りを隔てた建物の壁に突き当たってしまった。
「もしもーし! そこから見えますかぁ?」
眼科の入口のところでお姉さんが叫んでいる。
「見エル、見エマストモ、モチロン!」
私は大声で叫び返すが、ここからでも眼科の中のポスターのいちばん下の小さい文字まで見えている。
「もしもーし! あなた、なんで眼鏡なんているんですかぁ?」
検査のお姉さんが叫んでいるが、なにを言ってるのだ? 視力が衰えたって言ってるだろうが。私が国にいた頃には二キロ先のものまできれいに見えていたのに、最近ではそれが一キロ半ほどになってしまったというのだ。困ったものだ。こんな視力では、ケニアの猛獣たちにやられてしまうではないか。早く眼鏡を作って欲しいのだ、私は。
了
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