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第六百二十七話_short 健康診断にて [horror(戦慄)]

  毎年決まった時節に会社の健康組合が行う健康診断というものがある。会社としては従業員の福祉厚生として義務として行うようになっているようだ。それは健康のためにはとてもありがたいことなのだが、私個人としてはとても厄介なことが含まれる。なぜならば、私の身体は一般の人間と大分違う個性を有しているからだ。

 私が他の人間と違うことを社内の人々はもちろん認識しているのだが、健康診断を行うのは社外からやって来る見ず知らずの医師や検査技師たちである。彼らは私の身体の特徴など一切知らないままに普通の従業員の中に混ざって目の前に現れた私と対峙することになるからちょっとしたトラブルが起きることになる。

「では、ここに額を充てて、機械の中の文字を見てくださいね」

 視力検査では、左目は問題ないのだけれども、右目についてひとこと告げることになる。

「あれ? これが見えませんか?」

「ええ、実は右目は若い頃に病気をしまして、ほとんど視力が出ないんですよ。いえ、見えているんですけど、文字が認識できないのです」

「はぁ、そうですか……どんな病気です?」

「ええ、その、なんて言うか……網膜投影画像認識異常症候群っていう……」

「はぁ? ああ、網膜のね……わかりまいた」

 聴覚検査では技師が音を鳴らす前にわかってしまうので、ここでは不正直ではあるが、適当なところで反応することによって難を避けている。

 超音波による内臓検査のところでも、私のお腹のところにセンサー端末を充てながら首を傾げている技師に向かってひとこと言わなければならない。

「あの、実は私の内臓は、生まれつきみんなと場所が違うのです」

「……ふーん、なるほど。なんだか変だなと思っていたのです。うむ、右と左が逆になっているようですねぇ、なるほど」

 心電図検査でも、あの吸盤みたいなセンサーを取り付ける場所を少し変えてもらわなければならないのだ。

 しかしまぁ、どの検査でも、そのようなことを告げても検査技師たちはもはやあまり驚かない。なぜなら、私が目の前に現れた時点でまず少しぎょっとするからだ。なにしろ私の身体は白い体毛で覆われているわけだし、顔も普通の人間と比べると、そう、ちょうどみんなが知っている動物にたとえるならば兎によく似た感じだから。でも、最近は”多様性”だとか”個人情報”だとか、さまざまな世の中の認識変化が生まれているおかげで、他人と違うからといって大騒ぎをするような人間はいないからそれは助かる。

「いやいや、なにも問題はありませんよ、あなたみたいな方も最近はどんどん増えていますからね」

 最後に受ける問診のところでは老医師がそう言ったが、この医師自身、私と同じような匂いを感じた。

「まぁ、こうして地球人に交じって生きていくのには、みんなさまざまな事情があるわけですからね。しかしまぁ、健康には気をつけてくださいよ。普通の人とは違う体質をお持ちなんですからね」

 老医師はそう言った後、蜥蜴に似た顔にほほ笑みを浮かべて首の後ろ辺りにあるらしいうろこ状の何かをシャラシャラと小さな音を立てて震わせた。 

兎.jpg 

                      了


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