第六百三十三話_short 逆さま [literary(文学)]
「あら、どうしたの? 今日はいやにご機嫌ですね!」
いつもは口角が下がって不機嫌な顔しか見せないのに、今日はずいぶんとにこやかにトレーニングしているのは、このジムで知り合った二歳年上のA子だ。
「……な、なに言ってんの……いま、必死なんだから、話かけないで」
A子は苦しそうな声で答える割にはご機嫌な表情なのが不思議だ。彼女がこんな顔するなんて。
「でも、ほんとうにいつもと全然違ういいお顔してるよ」
「だかぁ……いまは話かけないでってば……くっ……」
よく見れば彼女、壁際を使って逆立ちしている。今ごろそんなことに気づくなんて嘘とお思いだろうけれども、それほど彼女の顔の印象が先に目に入ってきたのだもの。
でも、ほんと。A子のこんな顔見たの、初めてかもしれない。って…これ、なんか変。
了
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