第六百三十二話_short 流れている [horror(戦慄)]
最近、友人が小顔のための整体院に通っているという。
「ほら、歳と共にね、顔の左右のバランスがおかしくなってたりさ、特にこの豊麗線のところ、ここが下がって来るのよね」
確かの彼女の顔は以前よりもすっきりと小顔になっているように思えた。
「鏡をよく見たらわかるよ。個々のところが流れているのが」
そう言って彼女は目じりのところを指差した。"流れている”という言い方が面白いなと思った。
「あなたも行ってみたら?」
そう言われて私も思い腰をあげて彼女に教えられた整体院を訪ねた。
施術室に入ると、整体師が私の顔を見るなり言った。
「お顔の矯正ですね? ではまずここに座ってください」
明るく照明された部屋の正面には大きな鏡があり、私の顔がはっきりと映っている。
「さぁ、どの辺から手をつけましょうかね?」
整体師はそう言うが、そんなこと訊かれても私にはさっぱりわからない。素人にはわからないからこうしてプロのところに来ているんじゃないのよ。いささかぷりぷりした気持ちになったが、鏡の中の私は怒っているのか笑っているのかさえわからない。なにしろ、顔じゅう流れっぱなしで、目じりがどこまでなのか、豊麗線は顎の下なのか、なにがなにやらわからないほど、私の顔は流れ続けているのだもの。
了
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