第七百二十一話_short サブリミナルマインド [literary(文学)]
「なんだい? それは」
大学で何を学んできたのかしらないが、昔から勉強好きだった直樹が聞きなれない言葉を言った。
直樹は急に哲学者みたいな難しい顔になって言った。
「君は、自分の意思で行動していると思っているだろう?」
「そりゃあそうさ。いろいろと自分で考え、自分で悩んで、やりたいようにやってるんだ」
直樹はふふっと鼻を鳴らした。
「ところが実はさ、そうでもないんだ」
「そうでもないって、どういうことさ」
「僕らは自分の意思で動いていると思っているけど、本当はもっと心の奥にあるなにか、つまり潜在意識によって動かされているんだ。そういうのをサブリミナルマインドっていうのさ」
「嘘だあ。俺は自分の意思でしか動かないぜ」
「じゃぁいま、僕の話を聞きながら鼻に指を突っ込んだのは君の意思かい?」
「え? 俺、そんなことした?」
「ああ、したさ。その大きな鼻の穴に人差し指を二回も突っ込んだ」
「ああ、これは癖さ。癖だから無意識にやってしまうみたいだな」
「無意識……そうだろう? 無意識にやってしまうっていうのもサブミリナルマインドによるものだと思うよ」
「ふーん。しかしなんだって急にお前はそんな話を始めたんだい?」
直樹の様子がおかしくなった。
「おい、寝るなよ。なんでそんな話を始めたのかって訊いてるのに!」
直樹の眼が一瞬反転して真顔になった。
「え? なんだって? 僕がなんの話を始めた?」
「おいおい、なに言ってるんだ。その、サブリミナルマインドって話……気になるじゃないか」
直樹はすっとボケたように訊き返す。
「サブ……なんだって?」
俺はもう一度言った。
「サブリミナルマインドって、お前が言いだしたじゃないか」
「サブリミナル……それ、面白そうだ。どういう話か教えてよ」
俺は直樹に馬鹿にされているのかと思いながら、たった今直樹から教えられたことをおさらいした。直樹は真面目な顔で聞き終えてから、それ、面白そうだから本を探して読んでみようと言った。
了
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