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第七百二十話_short 村上春樹の憂鬱 [ordinary day(日常)]

 10月8日。

 今年もまた憂鬱な日がやってきた。

 昨日、一昨日と日本人のノーベル賞受賞が決まり、そういう意味では今年は一段と嫌な感じがするのだ。

「別にそのような賞を取ろうとか考えてないし、だいたいマスコミが書籍の販売のために騒いでいるだけなんじゃあないですか?」

 私はあえて興味なさそうにそう言ってやったのだが、本心では一層早く受賞が決まればこのような騒ぎはもう二度と起こらないのにと思っていた。

「それにしてもねえ、毎年毎年村上春樹が受賞するに違いないってファンたちはみんなそう思ってますよ」

 出版社の人間だという男が品物を受け取りながら言った。

「だから、そんなこと知らんがな。受賞なら受賞とさっさと決まってくれよ」

 つい本音を言ってしまうと、男はしめたとばかりににたりとして「そうですよねー」と言った。

 世の中には同姓同名で恥ずかしい思いをしている人間は結構いるというが、私もその一人だ。親が二人揃ってハルキストだなんて、しかも村上の姓に生まれたからこんな目に遭うんだな。本物の春樹さん、どうか早く受賞してくださいな。

 私は出版社の男にお釣りを渡しながら言った。

「八百屋の村上商店の店主が春樹だなんてね、似合いませんわね」 

no-berushou .jpg 

                      了 


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