第七百五十五話_short ストック [literary(文学)]
第七百五十五話_short ストック
「たとえばね、冷蔵庫の中のものが減ってたらいやなのよね」
秋月さんが言った。
十個入りで買った卵が残り四個しかない、キャベツが残り少ない、牛乳が半分を切った、お米がおひつの半分以下になった……そうなると買い足して満杯にしておかないと不安になるという。
「ストック以外でもね、たとえばティーカップなんか、四客+予備で五客なかったらいやなのよね」
秋月さんは一人暮らしなのになんで四人分なんだろうと思ったが、訊ねる前に続けた。
「一人暮らしでもね、お客さんが来たりするでしょ? それに、予備がないと不安で仕方ないの」
客がそれほど多いわけでもないだろうに。
「それって、家族が欲しいっていう願望が入ってるんじゃあない?」
私は秋月さんのカップにコーヒーを継ぎ足しながら思ったことを言った。
「そうねえ、そうなのかも」
秋月さんはフフッと自虐的に笑いながら言った。でも彼女はそれ以外にも……たとえば洋服なんかでも、黒と白の2種類あったら、両方買いそろえてしまうそうだ。
「じゃ、今度は揃ったカップでコーヒーをいただきに行くわね」
「ええ、ぜひ。あなたのに負けないくらい美味しいコーヒーをごちそうするわ」
翌週末、秋月さんのマンションにお邪魔した。呼び鈴を鳴らすと休日なのにいつも通りにきれいにお化粧をしt秋月さんが玄関をあけてくれた。
「いらっしゃい!」
「おいしいコーヒー、いただきに来たわ」
居間のドアを開けると、人の気配がした。
「あら? お客さん? お邪魔じゃなかったかしら?」
「大丈夫よ」
秋月さんはにこにこしながらどうぞといった。
居間の真ん中に据えられたテーブルには四脚の椅子があって、迎えてくれた秋月さん以外の、おんなじ顔、おんなじ服を着た秋月さんが三人揃って言った。
「あら、いらっしゃい!」
了
↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m
コメント 0