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第三百七十四話_short 心霊写真 [horror(戦慄)]

 くそっ。霊子の奴め。部屋に仲間を呼んでの楽しい倒しいパーティに俺を呼ばないなんて! やっぱり俺は振られたのか? こないだの「じゃぁ、これでね」っていうのは、もうこれっきりっていう意味だったのか?

 先週、霊子と喧嘩した。軽い言い合いだと思っていたけど、あいつはだいぶん溜めこんでいるみたいだったもんなあ。しかしなんか悪いことしたのか、俺は? 女ってやつはわからない……

 悔しい悔しいと思っているうちに霊子のマンションまで来てしまった。もう十時を過ぎているが、三階にある霊子の部屋は賑やかそうなライトが灯っている。

 いったい誰が来てるんだ? 男も呼んだのか? 俺は無性に部屋の中を覗きたくなった。

 三階か……ちょっと高いけど、ま、大丈夫だろう。

 俺はマンションの外壁を上りはじめた。塀や空調の室外機、樋なんかがあって案外楽によじ登れる。

 ようやく霊子の部屋のベランダに手が届いた。腕に力を込めてベランダの格子を乗り越えたが、ものがいっぱいで足を置く場所がない。俺は格子にしがみついたまま、奇妙な格好で首を伸ばして窓に近づけた。音楽が鳴っていて楽しそうな笑い声が聞こえた。

「いーい? 撮るよ!」

 俺の首が中が水平に伸びて見える位置に達したとたん、パシッっと閃光が目を射した。

 

「わぁ……なにこれ?」

「なに? どうしたの?」

「ほら、ここ見て。窓のところ」

「わっ! 誰かの顔が写ってる」

「ええーっ! ここって何階だっけ?」

「三階よ」

「三階の窓に人が映ったりする?」

「なんか気持ち悪いわね、この驚いたような顔」

「霊子、あなたなんか悪い霊を呼びこんでない?」

「霊……? そ、そんなの……」

 霊子は最近ストーカー化している元彼のことを思い出したが、厭なことを忘れるためにすぐに振り払うように首を振った。 

                      了


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第三百五十七話_short 恐怖の家 [horror(戦慄)]

「ねぇ、シチュエーションスリラーって知ってる?」

唐突に妻が聞く。

「ああ、知ってるよ」

映画なんかで密室に囚われてなんだか不条理な状況の中で人が死んで、最後に残った一人だけが助かるってやつだ。面白いけど、救いがない話が多いので僕はあまり好きじゃない。

「ふうふってさ、なんだかそんなかんじがしない?」

「はぁ?」

妻がなにを言ってるのかよくわからない。

「別に拉致られてるわけじゃないけど、でも実質はお互いに束縛されてて、どっちかが死ぬまで自由にはなれないのよ、夫婦は」

たしかにそういう見方はできるかもしれないけど……おいおい、僕は君を束縛しすぎてるのかい? 給料だって全部渡してるし、君が欲しいものはたいてい手に入れてあげてる。だから君だって僕に尽くすのは当たり前じゃないのか?

「そうよ、私はこの家に縛られてて、自分が死ぬか、あなたが死ぬまで一生このまま自由にはなれないんだわ」

僕の体が動かない。まさかさっき飲んだ酒になにかをいれたのか?

「自由……」

後ろ手になにかを持った妻がにやけながら近づいてくる。

                      了


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第三百三十八話_short 呪いの言葉 [horror(戦慄)]

 ぼくが敬愛するホラー小説家S.キングの作品に「痩せゆく男」というのがあって、それはジプシーの老人から恨みを買って「お前は痩せていく」と呪いをかけられてしまい、実際どんどん痩せて死にかけるという恐ろしいお話だった。

 現実世界ではそんなことあるはずがない、あなたはそう思っているのではないですか? でも実際にも藁人形に五寸釘というようなものは存在しているではないですか。それを否定しますか?

 私は思うのです。あんなもの使わなくても言葉だけで呪いは成立すると。

 ほら、よくあるじゃないですか。「お前なんか死んでしまえ!」なんていうの。喧嘩終わりに言う捨て台詞で「一生呪われろ!」とかいうやつ。あれって、気にしなければいいのかもしれませんがね、実際は気にした方がいいんじゃないの?

「死んでしまえ!」

 そう言われてすぐに死んでしまうほどの力はないかもしれないけどね、世の中にはそう言われてほんとうに死んでしまったという事件もあったじゃないですか。

 忘れてしまった頃に呪いが効いてきて死ぬかも知れない。そうなるとただの事故や病気で死んだってことになるのでね、まさか誰も呪われて死んだなんて思いませんやね。

「死ね」なんて恐ろしい言葉じゃぁなくってもね、

「お前なんか不幸になれ!」

 なんて言われてごらんなさい。ぼくなんてもう不安で不安で眠れなくなっちゃいますね。あなた、大丈夫ですか?

 呪いの言葉を信じていないかもしれないけれど、「不幸になれ!」って言われてしばらくしたら親戚が病気になったとか、自分自身財布を落としたとか、そんなことなかったですかね? それって呪いの言葉通りになったとか思わなかった?

 まぁ信じなくってもいいですけどね、ぼくはある人に言ってやろうと思ってるんですよ。あの憎いあいつにね。

「ぼくはお前を生涯かけて呪ってやる、不幸になれってね」

 これ、普通に言ってもわからないだろうから、眼力を込めてね、目の前でね、印象的な声色で、三回ばかし繰り返して言うんだよ。そうすれば必ず効果を表すものさ。言われた奴は気になって気になって、そのうち自らド壺に入っていくはずさ。

 まだ信じられない? じゃぁ、あなたにも言ってあげようか? いやだって? いや、もう遅い。さぁ、覚悟してよ。

「あなたは・・・・・・必ず、いつか死ぬ」 

                      了

 

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第三百三十二話_short お気に入りの日~黄色いクマの声⑬ [horror(戦慄)]

 

「きみと過ごす日はぼくのお気に入りの日だ。だから今日は、ぼくの新しいお気に入りの日」

 

 アニオタだった彼はアニメの主人公が使った名言をいろいろ知っていたのだが、中でも子供の頃に親しんだ黄色いクマの言葉がお気に入りだった。というよりは、アニオタではない普通の人間である私にも理解しやすいものを選んでいたとも言えるし、あるいはこの言葉なら私を喜ばすかもしれないと信じていたのかもしれない。

 事実、付き合っている頃、「きみと過ごす日は、ぼくの新しい記念日なんだ」と初めて言われたときにはとてもうれしかった。その後も会うたびにそんな言葉を告げられたら、とても特別に扱ってもらってる気がしたものだ。

 だが、ときどき会うからこそ特別な日になるのであって、一緒に暮らすようになるとそれはどうなのだろうか。

 同棲するようになってからも彼は同じ言葉を言い続けた。

「今日もまたぼくのお気に入りの日になったよ」

 それでも最初のうちは笑って聞いていたのだが、四六時中一緒にいると嫌な部分が鼻につきはじめるものだ。

 アニメに傾倒し過ぎている姿や、そのために仕事や私とのことを後回しにしてしまう態度、すべての価値観が非現実なアニメ世界に置かれていることなど、以前は目を瞑れていたことがそうではなくなってしまった。

 三ヶ月後には絶えず喧嘩をしているような関係になり、さらに一月後私は彼の部屋を出た。彼と付き合いはじめてちょうど一年が過ぎていた。

 数年が過ぎて私は平凡な日々を過ごしていたのだが、穏やかな暮らしが破られた。

 ピーンポーン。

 玄関チャイムが鳴る。出てみるが誰もいない。

 ピーンポーン。

 またチャイムが鳴るので玄関のドアのところまでいって扉を開いても誰もいない。

 携帯が鳴った。友人のA子だった。

「ねぇ、聞いた?夕べK君が事故で亡くなったって」

 K君とは同棲していたあの彼だ。すっかり忘れていた存在だったが、にわかに様々なことが思い出された。背中にぞっとする気配を感じて振り向く。当たり前のことだが部屋の中には私以外誰もいない。なのになにかの気配を感じる。

「誰?」

 恐ろしくなって誰もいないはずの暗がりに向かってなんどもといかける。

「誰かいるの?」

 すると頭の中で声がした。

「今日は……ぼくのお気に入りの日だから……きみと過ごした日はお気に入りの日だから」

 もう何年も経ってはいても、彼にとってはお気に入りの日であり続けているのだ。一年中毎日が。

                      了

 

                                                                                          (クマのプーさんの言葉より)


 

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第三百十二話_short 友達リクエスト [horror(戦慄)]

 メールをチェックすると、友達リクエストが届いていた。

 友達リクエストというのはソーシャルネットワーク上でつながりましょうというお誘いなのだが、今回リクエストしてきたのは随分と懐かしい名前だった。

 宮前一郎。

 小学校からの友達なのだが、二十歳を過ぎてからはとんと付き合うことのなくなった奴だ。

 ソーシャルネットワークというものは、電話番号やメールアドレス、場合によっては出身校といった微細な情報からつながる相手を見つけてくるので、こんな懐かしい人と久しぶりにつながることができるというのが醍醐味ではあるのだが……。

 宮前一郎という名前は翌覚えているが、思い出したのは昨年のことだ。昨年行われた同窓会で宮前の名前が出たからだ。そのときの話では、宮前一郎はその前年に病気で亡くなったということだった。

 つまり今回のリクエストは死んだ人間から届いたということになるのだ。そう気がついたとき、俺は背筋がぞっとした。昔から死人から届く手紙の話や、死者からの電話といった類の怪談話は聞いたことがあったが、死者からの友達リクエストというのは初耳だった。

 数日後、別の友人からメールが届いて、あることがわかった。

 宮前一郎からの友達リクエストは俺だけではなく他の人間にも届いたらしい。そういうことに詳しい人間がいて、いったいどういうことかと調べてみたところ、宮前の死後、放置されていたIDが誰かに乗っ取られていて、勝手に悪用されていたということなのだった。幸い誰も損失を受けなかったらしいが、死んだ後のIDがそんなことになるなんて、俺は背筋どころか全身が鳥肌になるくらいぎょっとしてしまったのだ。 

                      了

 

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第二百九十四話_short リアルゲーム [horror(戦慄)]

 

 十七歳になる息子がまた居間のテレビの前に座り込んでゲームをしている。音は下げているからうるさいということはないのだけれども、画面が多様に変わるたびに部屋の中に光が照らされてちかちかする。

 それにしても最近のテレビゲームはよくできている。リアルすぎるくらいリアルだ。

 CGで作られているに違いないのだが、人間が現実の人物のように見える。プレイヤーである息子の手には玩具の銃が握られていて、銃口を画面に向けてトリガーを引くと、テレビの中の人物が血を吹いて倒れるのだ。なんかテロリストと闘うようなストーリーがあるらしく、息子が撃つ度に画面の中の外国人が倒されていく。

「面白いのか?」

 訊ねると画面を見つめたまま頷くが、返事はない。熱中しているのだ。これ以上息子をつつくと、きっと怒りだすだろう。

 最後の一人が倒れて派手なファンファーレとともに「YOU WIN」という文字が画面に現れた。

 「パパもやってみたら? はまるから」

 あれから一か月。私は完全にはまってしまった。会社から帰るとすぐにスイッチを入れて銃を握る。妻が怒るので、食事の間あ我慢しているのだが、妻が片づけものをはじめるとまたゲームに戻る。

 最初は妻から何度も叱られたが、そのうち諦めてしまったようだ。毎晩深夜まで撃ちまくっている私に呆れかえっているのだろう。

 さらに半月が過ぎて、ようやく私は全画面をクリアした。

 終わってしまった。もう撃てない。だからといってまた一からはじめる気もしない。似たようなゲームを息子が持っていたので試したが、「あれを越えるゲームは今のところないよ」と息子が言う通り、他のモノはとてもちゃちでつまらないものだった。

「ああ、撃ちたいなぁ」

 日々、あのテロリストをやっつける感触がよみがえる。

「なんかスカッとしたいんだけどな」

 家に帰ると、息子が居間で何かをいじっていた。何だろうと覗きこむと小型の空気銃かなにかそんなものだった。

「なんだ、新しいゲーム、買ったのか?」

 息子は上目づかいでにやりと笑いながら言った。

「ふん、ま、そんなもんだね。おもちゃじゃないけど」

 それは本物の銃だった。どうやって手に入れたのかはわからない。

「それ、どうするつもりだ?」

「悪い奴を撃ち殺すんだよ、あのゲームと一緒さ」

「で、ゲームはどれ?」

「ゲームじゃないって。街にいくんだよ」

「街に?」

「もう先週からはじめてるんだ。そのうちパパにもやらせてあげるよ」

 そういえば先週あたりから繁華街で人が無差別に撃たれるというニュースが頻繁に流れていたっけ。

                            

 

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第二百八十一話_short カリスマ弁護士 [horror(戦慄)]

「え? 旦那と別れたい? どして?」

「実は、好きな人ができたの」

 親友が教えてくれたのは、必ず離婚できてしかも慰謝料まで取ってくれるというカリスマ弁護士。

「事情はわかりました」

 原黒熱造弁護士事務所。カリスマというイメージから想像していたような格好いい弁護士ではなく、下腹を突き出したいかにも小ズルそうな中年の男が言った。

「簡単ですよ。いいですか、こうしましょう……あなたはご主人からDVを受けていたと」

 最近擦り傷や打ち身はないかと聞かれたので、そう言えば二、三日前に腕をどこかにぶつけてできた痣を見せると、素晴らしい! と言って写メが撮られた。

「いいですか、病院を紹介しますから、すぐに行って診断書をもらってきてください。それから、病院でほかの患者さんの傷の写真があるそうですから、それももらってきなさい」

 最近、でっち上げDVというのが流行しているとは聞いたが、こんなところで遭遇するとは。私は夫を憎んでいるわけではないし、優しい夫にそんな罪をかぶせては申し訳ないな。内心そう思ったが、背に腹は代えられない。慰謝料なんていらないけれども、とにかく優しいだけが取り柄の夫と別れなければ。

 私は弁護士ににっこりと笑顔で頭を下げて言った。

「先生、よろしくお願いしますね」

 夫はかわいそうだが、いまは自分のことの方が大事なのだ。

 

                          了

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第二百七十五話_short 遊ぼ [horror(戦慄)]

「あーそーぼ」

 あいつは今日も誘いに来た。

 最初はなんだか嫌な感じで、あんな奴とは遊びたくないと思った。

 なぜなら着ている服が古めかしくってちょっと汚れた感じだったし、近寄るとなんとなくカビ臭いような臭いがしたからだ。

 でも友だちというものは不思議なものだ。ほら、よくドラマなんかである俗っぽいはなしがあるだろう。最初は仲が悪くてどうしようもなかったのに、ある日殴り合いをしてから大親友になるっていうの。僕たちは殴り合いはしなかったが、いつの間にかとても仲良しになって、あいつは毎日のように誘いに来るのだ。

 いまはもう嫌じゃない。むしろあいつが誘いに来るのをいまや遅しと待っている。いまのところ来ない日はないけれども、もし来なくなったらどうしようとさえ思う。そうなったら僕は一人ぼっちでどうやって過ごせばいいのかと悩んでしまうだろう。

 妻が病気で死んでからというもの、友人どころか知り合いは一人もいない。妻の友人だった近所の奥さんがときどき往来で心配そうに声をかけてくれるが、わざわざ家を訪ねては来ない。僕とは友だち関係を持たなかったからだ。僕は昔から社交的な性格ではなく、そういうことは妻に任せていた。妻の葬儀もひっそりと密葬で済ませ、わずかな知り合いにしか声をかけなかった。死んだ妻は不満だったろうが、大勢の人間を呼ぶことなど僕には無理だったのだ。

 密葬を終えてしばらくした頃、あいつが訪ねて来るようになった。遊ぶったって、なにをするわけではない。部屋の中で老人が二人ひっそりとお茶を飲んだり黙って飯を食ったりするだけだ。気持ちが悪いだなんて言うか? 老人なんてみんなそんなもんだろう。若い頃のように表に遊びに出たりはしない。

 体力も気力も無くなってくるし、伴侶を失った男なんてなおさら生きる気力も失せてしまう。

 そんなときに来るようになったあいつのことをありがたいと思っている。あいつがいなかったらとっくに僕は……。

 いや待てよ。僕はふと考える。あいつって誰だ? どこにいるんだ? 確かさっき来たと思ったんだけれども。ここに湯のみが二つあるけれども、どこにいるんだ? あいつって妻のことか? いや妻はひと月前に死んだ。それからあいつが現れるようになって。

 僕は湿気た布団の上に横たわっている。目だけを動かして部屋の中を探す。もう何日もなにも食べていない気がする。そのせいか身体がいうことをきいてくれない。

 枕元にあいつを見つけて少し安心する。「よう」と意味もなく声を出す。あいつは黒いフードの中でいつも通り無表情な顔で僕を覗き込む。

                          了

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第二百七十二話_short 透明人間 [horror(戦慄)]

 厭だなぁ、またワルガキたちがたむろしてる。

 いつもあいつらがうだうだやっているのはコンビニ横の路地の入口。私はそこを通らなければ家に帰れない。

「いよぅ、ネエチャン、今日も俺たちを無視するのかい?」

 誰か一人がそう言うと、他の少年たちも口々にはやし立てる。いつだったか一人に腕を捕まえられてしまい、そのまま壁に押し付けられた。みんながニヤニヤしながら取り囲む。

「いやだ、やめてよ」

 小さな声で言っても誰も耳を貸さない。

 同じ学校の生徒なら先生にお願いできたかもしれない。でもあいつらはたぶん、隣町の高校生だ。私が醜いから囃したてるのだろうか。私の家が貧乏だから嫌がらせするのだろうか。

 いっそ透明人間になってしまいたい。そうすればなにも言われずにあの道を通り過ぎることができるだろう。

 逃げる途中で坂道の崖から落ちそうになることもないだろう。

 私はできるだけ彼らの方を見ないですり抜ける。不思議と今日は誰も絡んで来ない。そういえば昨日も。その前も。ぼんやりと思い出す。あの日を境に嫌がらせされなくなったような気がする。

 もしかして……私は笑いそうになりながら思う。私、透明人間になったのかしら? 

 坂道の崖のところに小さな花束が供えられていて、その脇を通り過ぎながら笑ってしまう。

 

                          了

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第二百十五話_short もう一人の俺 [horror(戦慄)]

 最近、俺のドッペルゲンガーが出没しているようだ。なぜそう思うのか? 言った覚えのないことを人から言われるからだ。こないだも事務所の女から文句を言われた。

「バッグを買ってやるって約束したのにぃ! うそつき!」

 そんなこと言った覚えはない。なんでこの正直者のこの俺がうそつき呼ばわりされねばならんのだ。これももう一人の俺、ドッペルゲンガーが現れているからに違いない。

 考えているうちに次第に胸くそ悪くなってきたので、いつもの店で飲むことにした。

「あ~ほんとになんてこったい。俺はまっとうな人間だ!」

 店の女に愚痴を垂れているうちに酔いが回って気持ちも治まってきたのでもう一杯お代りをする。

「なぁ、君も飲んだらどうだい? 一緒に飲んでくれたらさぁ、ウイィ~今度指輪でも買ってやるからさぁ」

 いい気持ちになると口が軽やかになるんだ、俺は。ウィっプ!

                          了

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