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第五百六十二話_short 頭の中にいる [horror(戦慄)]

「幽霊は本当にいるのかと聞かれたら、幽霊は頭の中にいると答えるね」

心霊科学研究者という男が言った。

頭の中に? それはどういうことだ? 幽霊っていうのは、夜中に人里離れた橋のたもとの柳の下とかに出るものじゃぁないの? ああ、それはちょっと古いか。最近なら田舎の古い屋敷に出るとか、どこかの国道でトンネルから出たあたりで出るとか、そんなんとちがうのか? 頭の中に出るって、いったい……。

 ああそうか、この人はなんて言ったっけ、そうそう、心霊科学研究者とか。つまりお化けとかスピリチュアルとかそういうのではなくて、もっと科学的に幽霊を解明する立場で言っているにだな。きっとこういうことなんだろうな。

幽霊というものは実際に存在しているのではなくて、頭の中にある脳の想像力の賜物であるということにちがいない。頭のいい人が言うことはやはりちがうものだ。

 勝手に一人で納得して科学者という存在に感心して男を見ていると、男が言った。

「いま私が言ったことを証明してみせよう」

科学者が目を閉じると頭が二、三度ぶれるように震えて、頭のどこからか煙のようなものが出て幽霊が現れた。

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第五百六十一話_short 癒しの幽霊 [horror(戦慄)]

 中世期に描かれた幽霊には足があったという。日本でも江戸中期以前の幽霊には足があって、生前と同じ姿で描かれている。 

「つまり、身近な家族や友人が亡くなってからも傍にいて欲しいという願望の表れなんですよね」

 文化人類学者がテレビの中でそう言った。

 誰だって愛する人や親しい人間がいなくなってしまうことは辛いものだ。亡くなってしばらくは現実として受け入れ難くできれば間違いであってほしいと嘆く。その結果、夢に現れたり、現の中でも夢のように現れるのかもしれないし、そうじゃなくとも願望としてそのような姿を描いたりしてきたのだ。

 だから亡き人の姿は現在描かれる幽霊のような恐ろしいものではなく、残された者を癒してくれる存在として生きているときと同じ姿で描かれるのだ。

「当たり前だ」

 私はそう思った。私は幽霊など信じないし、だから怖いとも思わない。死とは無に帰するということだ。死んでから魂だけがこの世に残るなんてあるわけがない。現実主義的かもしれないけれども、科学の時代には考えられない妄想だ。

 それでも幽霊や霊魂を恐れる人々が私には不思議に見える。なぜ有り得ないものを恐れるのかと。

「なあ、母さん」

 私は母に向かって同意を求めたが、むろん母は答えてくれない。答えるわけがない。

 三年前に亡くなった母の亡骸は、現代の保存技術によって美しいままに保たれてはいるが、魂もなくただ躯として私の部屋の椅子に腰かけるように置かれているだけなのだから。 

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第五百六十話_short 恐怖の館 [horror(戦慄)]

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 合衆国の片田舎に、そこでは何かが起きていると噂の古い館があった。

 そこに住んだ人間は行方不明になったり、惨殺されたりと陰惨な事件が続いた後、既に半世紀余り誰も住んでいない状態で放置されてきたのだが、あるとき噂を聞きつけた霊媒師がお祓いをしようと乗り込んで行方知らずになり、その後も除霊師や科学者などが館に入りこんでは消息を絶ったり、命を失ったりした。

 あそこには何かがいる!

 みんなそう確信した。近年ではカメラが持ち込まれて撮影されたビデオが残されているが、いずれも人が消えてしまったり、殺される瞬間は映っているものの、肝心な者は何ひとつ映っていなかった。

 あの館で一晩を過ごすと恐ろしい目に遭う。そして消息を絶つか、命を失ってしまうので、結局正体が開かされることがない。いくらビデオやカメラを持ち込んだところで、それらを目の当たりにして人に伝える人間がいなくなってしまっているのだからどうしようもない。

 ある学者が考えた。そうだ、あの館で一夜を過ごそうなんて考えるから物騒なのだ。すべての部屋にカメラを据えて、遠隔操作で見積はればいい。そうすれば人間がいなくなったり殺されたりすることなく、謎の現象を撮影することができるに違いない。

 これはすばらしく正しい考えだった。人の命は大切だ。

 こうして彼は昼間に館を訪れて各所にビデオカメラを据え、そこから数キロも離れたアパートでいくつもの映像を監視し続けることにした。

 しかし、何日過ぎても謎の現象は現れず、怪しい影すら出現しなかった。

 館で起きる怪奇現象は、そこに人間がいないと発生しないからだ。消去されるべき、惨殺されるべき人がいないと、正体の主は何もできないのだ。 

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第五百四十八話_short 恐ろしくない恐怖 [horror(戦慄)]

 世間の人間はいったいなぜ怖がるんだろうと思う。世の中に怖いものなどあるか? 幽霊? お化け? 怪獣? そんなものは実在しない。UFO? あれは未確認飛行物体なんだろう? いたとしても相手はただの宇宙人だ。テロリストとか犯罪者が怖い? 相手は同じ人間じゃあないか。怖いことなどあるものか。

 怖いと思うから怖いんだ。

 自分がしっかりしていて正しく対処さえすれば、この世に怖いものなどなにひとつないんだ。俺はそう信じる。

 どうして人は恐怖を感じるのか、それは危険から回避するためだという学者もいるようだが、そんなもの弱虫の屁理屈だと思うよ。

 そう言いながら相手を睨みつけたとたん、悪人の銃が俺をめがけて火を吹いた。

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第五百二十話_short 本当の恐怖は [horror(戦慄)]

 ……この映像は、とある田舎の廃村で発見されたビデオに収録されていたものである……

 映像は、三人の若者が山奥にある廃村に入っていくところからはじまっている。うっそうとした、そう、ちょうど樹海のように生い茂った樹木の間に細い山道があり、それを抜けると急に視界が開け、朽ち果てた家が建ち並んでいた。

「なんだか気持悪いわ」

 メンバーの一人、唯一の女性が言った。

「大丈夫さ、ただの山村だ」

 先頭を歩いている男が振り向いて答えた。

「いや、俺もなんか変な予感がする」

 ビデオカメラを回しているらしい男の声。

 昼間なのに夕方のような薄暗さは、天気のせいだと思われるが確かにあまり気持ちのいいものではないようだ。カメラは村の家々を順番に訪ねていく彼らの足跡をとらえていた。朽ち果てている以外はとりたてて変哲のなさそうな木造建築の建物は多くが藁ぶきの屋根を乗せていて、中には天井に大きな穴を開けてしまっている家もあった。奇妙だと言えなくもないことは、どの家も玄関口になにか魔除けのお札のようなものをいくつも貼り付けていることだった。だが、こんなお札は日本ではどこかの神社ですぐに手に入るようなものであったから、なにかの異変を示すものだと彼らは思わなかったようだ。

 やがて陽が落ちて、彼らは集落の中の最も大きな家で一夜を過ごすことに決めたようだ。その家は、おそらく村長の家ででもあったのだろうか、立派な門を構えた二階建ての大きな藁ぶき家だった。

 家の中で見つけた囲炉裏に火を起こした彼らの姿があった。ゆらゆら揺れる炎に照らされた彼らは英王だけを見れば妖気を感じさせるものがあったが、炎の前ではしゃぐ彼らの声がそれを打ち消していた。

 次に映し出されたのは暗闇の中で起き出す彼らの姿。

「なんだ、いまなにか変な音がしなかったか?」

「いや、あれは風邪の音だ」

「風邪なんかなかったぜ」

「いやだわ、寒気がしてきた」

「ほら、やっぱり。あれはなにかの声だ」

 ビデオには収録されていないが、彼らの耳にはなにかの声が聞こえていたようだ。「様子を見てくる」と一人が部屋を出てえいく。後ろ姿を映し出すカメラ。

「どうしたのかしら? 戻ってこないわ」

 不安げな女の声は、既に長い時間が経過したことを表していた。

「見てこようか」

「嫌。私を一人にしないで」

 結局二人揃って最初の男の後を追う。懐中電灯の明かりを頼りに二階に上がっていく二人。ギシ、ギシッと床が軋む。

 足元が映し出される。そこにはなにか獣の死体が干からびて転がっている。乾いた血糊。ライトが周りを照らすが、女の姿がない。

「おい、どこ行った! マリ。ふざけてるのか? おい!」

 カメラの男が必死に呼ぶがマリとyばれた女の姿はない。そして壁には朱色で描かれた気持ちの悪い印があった。後ずさりするカメラ。

「おおい、マリ! 信二! みんなどこ行ってしまったんだ?」

 カメラは大きく揺れながら階下を目指す。突然、大きく揺らいで暗転。

「ここは……? 俺、落ちたのか?」

 カメラが頭上に開いた穴を映し出す。

 ガサッ!

「ヒエッ!」

「シッ! 俺だ、信二だ」

「なんだよ、どこにいたんだ」

「ここは地下室だ。なにかの儀式が行われていたようだ」

 見ると祭壇のような物をいくつもの箱が取り囲んでいる。 何かの骨が転がっている。

「なぁ、マリが消えた」

「消えたって? そんなバカな」

「本当だ。二階に上がったときに・・・・・・・」 

 きえーっ! 何かが叫んでライトが消えた。カメラが転がって映像が乱れた。

「おい、大丈夫か? マコト!」

 信二が納戸呼んでもカメラを回していたマコトの姿はない。床に転がったカメラが不安そうな信二の姿をとらえている。

「マコト! マリ!」

 交互に叫ぶが、反応はない。

 信二は気が狂ったように階段を探し、一階に上がっていく。マリ! マコト! と叫びながらすべての部屋を探しまわる信二。みんなどこだ! どうなってる! 懐中電灯の明かりは余りにも頼りなく、しかも電池が少なくなったのか、次第に明るさを失っていく。

「あ……ああー……」

 床に崩れ落ちる信二。そのとき何者かがギャーっという獣めいた叫び声をあげながらカメラの前に現れて画像が乱れる。暗転。暗闇の中でガサガサという怪しい音。床に転がった懐中電灯が突然薄暗く瞬いて、壁に張り付いた血まみれの信二らしき姿を映し出す。しばらくそのままの映像が続いて突然切れる……。

 ……これは真実なのか? 三人のうち生き残った者は一人もいない。数ヵ月後にただビデオカメラだけが発見された。

 最初と最後のタイトルだけは編集者がつけ加えたモノだと記されてビデオが終わる。

 廃村でいったい何が起きたのか? これは真実なのか?

 だが、最も恐ろしいのは、最後の一人をカメラで撮ったのはいったい誰かということだ…………。 

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第四百八十七話_short マスクの理由 [horror(戦慄)]

 今年はインフルエンザが大流行してマスクをかけている人を多く見かけた。マスクはインフルエンザにかからないようにするためではなく、インフルエンザにかかった人間が、咳やくしゃみで唾液を飛ばして菌をまきちらさないようにするために必要なものであるという話を聞いたことがあるのだが、果たして皆がそのように理解して使っているのかどうかは怪しいものだ。

 二月に入ってぼつぼつとマスク着用の姿が減ってきているという時になって、同僚の阿隈君がマスクをつけて出勤してきた。しかも白ではなく黒っぽいマスクで真ん中に十字のマークがついている。最近はそんなデザインのマスクもあるようだ。

 彼は明るく快活なキャラクターなのに、心なしかマスクの下は辛そうに見えた。

「あら? 今になってインフルエンザ?」

 通りがかりに訊ねると阿隈君が振り返って言った。

「うーん……インフルエンザじゃないんだけど……」

「うん? じゃぁ、予防とか?」

「そうだね、最近ちょっとエライものを背負い込んでしまって……実は僕の中に棲みついた悪魔をまきちらさないようにしてるんだよ」 

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第四百七十話_short オニハソト [horror(戦慄)]

 そう言えば、今日は節分なんだ。

 コンビニに貼られたポスターを見てはじめて気がついた。日本の伝統歳時というものの多くが律儀に守られているのは良いことだなぁと思う反面、自分自身はあまり気にも留めていないことに気がついて、いかんいかんと自省する。それに……こういうものの多くを継続させているのは、コンビニで売っている巻き寿司や豆セットであることにもなんとなく違和感を覚えたりもする。

 うちはまだ子供がいるから豆まきをしたりしているけれども、他所はどうしてるんだろう。

 会社からの帰り道、最近はほとんどマンションばかりなので様子がわからないのだけれども、昔からある一戸建ての前等を通ると家の中から「鬼は外! 福は内!」などという声が聞こえてきて、ああ、やっぱりやってるんだなぁとほっこりした気分になった。しばらく行くと、古いアパートからも同じような掛け声が聞こえるので、ああ集合住宅でもやってるんだなと目をやると、外に鬼の面をつけた男がいて、二階の窓から母子が豆を投げつけている。ははぁ、お父さんも大変だな。一戸建てなら庭でできるんだろうけれど、アパートだとああいうことになるんだな。ほほえましくもあり、なんだか哀しいような気もした。

 うちもやってるのかなぁ? 去年はどうだったっけ? そうそう、俺は帰りが遅くって隆はもうベッドに入ってた。佳子に文句を言われたっけ。

「あなた、もう早く帰ってって言ったのに! 鬼の役をしてほしかったのよ!」

 そうそうそう言って怒られたんだっけ。

「そんな帰りの遅い鬼は、次は家の中に入れなくなっちゃうわよ!」 

 ちょっと遅かっただけで鬼扱いするなんて。しかしまぁ、昔の人はよく考えたものだ。鬼を家の中から追い出して、福だけを呼び寄せるなんて。それで本当に家の中がよくなるのならいいけどな。 

 そんなことを思い出しながらようやくマンションに着いた。エレベーターを上がり自室のドア前まで行くと、中から声が聞こえた。

「鬼は外! 福は内!」

 ドア越しなのであまりよくは聞こえないのだが、どうやらうちでも豆まきをしているようだ。

「鬼は外! 鬼は外!」

 妻と息子の隆でやっているのだろう。

 ドアには鍵がかかっていたので鞄から鍵を取り出して開けようとしたが、ドアが開かない。

 なんだ? どうなってる? 呼び鈴を押してみる。

 ピンポーン! ポンポーン!

「鬼は外! オニハソト!」

 誰も反応せず、掛け声だけが聞こえてくる。 

「あら? あなた、どうしたの?」

 突然後ろから妻の声がした。

「なんだお前。中にいるんじゃなかったのか?」

「うん、ちょっと買い忘れがあって……」

 妻が鍵を取り出して開けようとするがドアは開かない。

 「どういうことだ? 鍵が壊れたのか?」

「おかしいわねえ。どうなってるのかしら?」

「呼び鈴を押しても出てこないんだ。隆、中にいるんだろう?」

「隆? いいえ、あの子はまだ塾から帰ってないはずよ」

「でも、家の中で叫んでるぞ?」

 鬼は外! オニハソト!

「どういうこと? もう帰って来たのかしら?」

「おい、隆! 開けてくれ!」

 すると後ろから隆の声がした。

「ママ、パパ、何してるの?」 

「なんだ、隆。お前もなかじゃぁなかったのか?」

 鬼は外! オニハソト!

 じゃぁ、家の中で叫んでいるのはいったい?   

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第四百五十六話_short 謎のワンカット撮影 [horror(戦慄)]

「本編は全編ワンカットで撮影されています」 

 ホラー映画の冒頭でそんなメッセージが現れたので、普段気にもしない撮影手法を意識しながら見ることになった。

 ワンカット撮影とは、一度もカットすることなく同じカメラをずーっと回し続ける手法だ。普通は場面毎にいったんカメラを止める(カット)という方法で撮影を繰り返し、後に編集で場面をつないでいって一連の映画が出来上がる。だから時間は飛ぶし、場所も変わる、場合によっては視点もがらりと変わってしまう。

 ところがワンカットだと時間は見ている者と同じように進んでいき、場所もいきなり遠くに飛んで行けない。わかりやすく言えばいま僕が自分の目で見ているそのまま物事が進んでいく感じだ。

 映画の場合、難しいのはカメラが主人公の視点であると同時に、主人公の姿もとらえるために別の視点が必要になるのだが、その切り替えだ。部屋の中を主人公が見ているとして、いつの間にかカメラは主人公の目から離れて別の場所から主人公を映し出す。それはあたかも幽体離脱しているような視点の移動だ。 

 敢えて冒頭で撮影手法等が表示されるものだから、ほんとうにカットが入ることはないのだろうか、どっかで編集がはいっているのではないだろうか、役者は二時間ほどの連続した演技をどうやって継続させるのだろうかなどと、いつもと違うやり方で映画を鑑賞することになってしまった。

 冒頭明るく普通の女の子だった主人公の表情が中盤になって恐怖に包まれていく。一時間足らずの間に人はこんなにも変貌するものかと思うのも、ワンカットであると思うからだ。見ている僕はどうなのだろう。恐いシーンを見続けているのだからきっとあの女の子ほどじゃないにしても恐怖の色が張り付いているに違いない。

 テレビ画面だけを見つめていた僕の視線は少しずつずれていって、気がつけばテレビの前で少しだけ固まっている僕の姿が目に入る。テレビから大きな音声が流れると、僕も主人公と一緒にびくっと飛び上がる。カメラ、正面から恐怖に歪む僕の顔に迫る。僕はもはやホラー映画を見ているのだか、ホラー映画を見ている僕を見ているのだか、わからなくなっている。

 部屋のどこかでパタパタと足音がする。この部屋には僕以外には誰もいないはずなのに。天井から軋むような音。遠くで「ドスン」という大きな音。テレビの中から女の子の叫び声がする。

 助けて・・・・・・。

 助けてあげなきゃと、僕は思う。

 なにかに背中を突かれて僕は前のめる。光が交錯して目がくらみ、その後気がつくと僕は見知らぬ洋館の中にいる。

 画面に映し出された億は混乱と恐怖で動けない。女の子はさっきまで僕が座っていたソファの上でポテトチップスを食べながらホラー映画を見ている。 

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第四百十二話_short かいぶつ [horror(戦慄)]

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 ヨーロッパには古くから吸血鬼伝説があって、十九世紀の作家ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」なんかで有名になったけれども、ぼくはあれは伝説でもなんでもなく、また吸血鬼という怪物なんかでもなく、実在した人間の話だと思っている。つまり、壊血病やエボラ出血熱みたいな病に冒された、あるいはもしかしたら遺伝子的に血液から栄養を摂らなければ死んでしまう体質の人間がいたのだと信じている。

 なぜそう信じているのか、ドラキュラについていろいろ調べたのか、そう訊ねられたら答える術を持たないのだけれど、経験値としてそう思っているのだ。

 子供の頃、父が黙ってドラキュラの本をぼくに読みなさいといって渡したのだが、それを読んで見たら、すぐにぼくはすべてを理解できた。世の中にはさまざまな生き物や人間がいて、みんなが同じようなものを食べているとは限らない。魚を採って食べる民族、牛豚を食べる民族、犬や猫も食べる民族、植物だけを食べる民族、その食文化はさまざまだ。それに、もっと特殊な人間、一切のアルコールを受けつけないとか、ある種の消化酵素を持たないとか、そのような体質の人間もいるのだと思う。

 「思う」というのは、まさにぼくがそのような体質だからだ。

 小さい頃は普通の人と同じように、米や肉や魚を与えられていたというけれども、そのほとんどが消化されずに排出されてしまい、幼いぼくは悪しき体質を先祖から受け継いだ子供であることがわかったという。父も祖父も同じような体質であったし、男の子が生まれたときに遺伝するかもしれないと恐れたそうだが、それが現実のものと知ったときには、諦めの気持ちしか湧かなかったそうだ。

 つまりぼくは祖先から特殊な体質を受け継いでしまった数少ない人間なのだ。

 幸いなことにドラキュラのような血を求める人間ではない。だから他人の命と引き換えに糧を得るようなことはない。だが、限りなくそれに近いともいえる。 

 ぼくはいまは亡き父から栄養の摂り方を教わり、そのようにして命をつないでいる。そして今日も深夜を待って家を出て、目星をつけた家に忍び込む。

 その家の寝室に静かにもぐりこみ、熟睡している獲物の鼻腔にビニール管を静かに射しこんで……。

 ぼくは人の体液からしか養分を取り込めない特殊な体質を持った人間なのだ。時代が時代なら「吸液鬼」などとかいぶつ呼ばわりされていたかもしれない存在なのだ。 

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第三百八十話_short 言葉の意味 [horror(戦慄)]

「イルカの脳は人間につぐ大きさを誇り、高い知能を持っているとされている。しかし、彼らが人類のような知性を発揮できないのは、言葉を持たないからだと私は考えている」

 教授はそう言って本日の講義を締めくくった。

そうなのだ。この世界で人類が唯一無二の存在でいられるのは、ひとり言葉を持つ生き物であるからだ。イルカに限らず、もし、言語を使う生物がいるならば、そいつは人類と同じように高度な進化を遂げるはずなのだ。

 頭の中で自らの学説を反芻しながら自室に戻った教授は、部屋の窓に目をやって顔をしかめた。

 なんなのだこれは。窓硝子になにか黒いものがびっしりとこびりついているではないか。なにがこびりついているのか確かめようと窓際に近づいた教授は思わずのけぞった。

 虫だ。昨日業者に頼んで駆除させたはずの蝿がびっしりと窓硝子に貼り付いている。しかもさっきは気づかなかったが蝿のいない部分が所々にあって、それが白く抜けた模様のようなものを形作っていた。それは文字だった。

 殺。

 それは自分に対する蝿の意思のように教授には思えた

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