第六百二十八話_short ヴァンパイア体質 [horror(戦慄)]
「それではシャツを脱いで、そこに胸を充ててください」
レントゲン技師に言われるままに撮影機材の指定場所に立って胸の部分をパネル面に充てる。
「では、大きく息を吸って……止めてください」
私はこんなことをしても無駄なのになと思いながら大きく息を吸い込んで口を閉じた。
レントゲン撮影はほんの三分ほどで終わったが、数日経つとまた呼び出されるのはわかっている。原因はわからないけれども、機材の調子がおかしかったらしく、写真が写っていなかった、ついては再撮影の日程を決めたいと、そう伝えられるのだ。
前回は言われるままに再撮をした挙句、やっぱり写らないので、もういいですとこちらから事態したのだが、今回はどうしよう。最初からレントゲン等受けなければよかったのだ。
一年ほど前から、僕は写真に映らなくなった。大人になってからは写真を撮ることなどめっきり減ったので、普段困ることはほとんどない。それどころかそんなことになっていることにすら気がつかなかった。ところが、レントゲンなどというものは別だ。年に一度、健康診断では必ずレントゲンを撮ることになっているからだ。
そんなわけで、昨年のレントゲン検査のときにはじめて気がついたのだ。
病院に行こうと思ったけど、病気でもないのに、なんて言う?
「あの、僕、写真に映らなくなったのですが……」
医師は言うだろう。
「そんなことで病院に来ないでください。写真館とかでご相談されては?」
そうなのだ、写真に映らないだけで、熱があるわけでも咳がでるわけでもないのだ。これはたぶん病気等ではないのだ。
インターネットで調べてみたが、写真に映らない病気など出てこなかった。ただ気になったのは、ヴァンパイアについての書き込み。昔から知られていることだが、ヴァンパイア、つまりドラキュラは鏡に写らない。これは光の反射などと関係しているらしいのだけれども、昔の一眼レフには鏡が入っていたので、当然その鏡にも写らないわけで、したがってヴァンパイアは写真にも写らないそうだ。
しかし最近のデジカメやレントゲンカメラはどうなのだろう。ぼくはカメラマニアとかじゃないので、詳しいことはわからないが、ヴァンパイアはどのようなカメラにも写らないのかもしれない。
そして何よりも大事なことは、去年の健康診断の直前くらいの時期にあったことだ。僕は偶然バーで知り合った女の子と一夜を共にし、それっきり再会していないし、その女の子がどこの誰かもわからないのだが、あの夜、あの女の子に軽く首筋に噛みつかれたのだ。
彼女は酔っぱらっていたし、血を吸われたとも思えないのだけれども、まるで吸血鬼に襲われたような気持にはなった。
そしてその直後に受けたレントゲン写真でひと騒動起きたわけだ。
もしかしたら彼女はヴァンパイアだったのでは? そして僕は噛まれることによってそのヴァンパイアの体質を注入されてしまったのではないか? 憶測にしか過ぎないが、彼女の正体も、居場所もわからない以上、億速することしかできない。そして僕は彼女の姿を求めて、今夜もあのバーを訪ねてみることになるのだ。
了
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