第六百八十七話_short 恋するお年頃 [ordinary day(日常)]
満雄は音楽家になりたいと思っていた。音楽家と言ってもクラシックではない。俗にいうシンガーソングライターとかそういうのだ。音楽はとても好きでギターはある程度奏でることができると自負しているのだが、残念ながら自分には文才というものがかけていると思っていた。だから歌詞を書くことのハードルが高くて、シンガーはできてもソングライターの部分が難しいなあとずっと思ってきたのだ。ギターを抱えればメロディーは作れるが、歌詞だけは作りあぐねてきたのだ。
ところがそんな満雄にちょっとした転機が訪れた。毎日顔を合わせる愛という名の娘に恋をしたのだ。恋は男を詩人にするとはよく言ったものだ。愛への想いを綴るだけでそれが詩のようなものになった。
♪君が好きだ、君が好き。
君を思うだけで胸の中は熱いものでいっぱいになる。
君が好きだ、君が好き。
どうして君はここにいるの?
たぶん僕と出会うために、君は生まれてきたんだよ。
だから僕はせいいっぱい、君のことを思い続けるんだ。
愛を知る。愛がある。愛してる。愛こぼれる。
愛がすべて。愛は素敵。愛に生きる。愛に溺れる。
そう、僕には君への愛がある~
満雄は一気にこんな詩を書きあげてメロディーをつけ、恥ずかしげもなく愛の前で披露した。
目の前で満雄に歌で愛の告白をされた当の愛だが、仕事上いやな顔はできない。満雄が歌い終えるのを待ってから、少し恥ずかしそうな顔をして言った。
「とても素敵な歌ですね。私のためだなんて、うれしいわ。ありがとう。またいい歌ができたら聞かせてね、おじいちゃん」
介護士の愛はそう言って満雄の部屋を離れ、次の要介護老人が待つ部屋に向かった。
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