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第七百十二話_short 隠し芸 [ordinary day(日常)]

 いままでそんな催しがあった覚えがないのだが、今年は社員やその家族に向けた慰労の会が開催されることになった。只の宴会とかではなく、ホテルの催し会場を借り切ってのいわば文化祭みたいな催しだ。

 従業員の有志が焼きそばやホットドッグの屋台を出し、ファミリーの子供たちに向けた射的コーナーやくじ引き屋台もあった。従業員は家族や友人を引き連れて訪れ、どうぞ和やかなひと時をお過ごしくださいといった趣旨らしい。

 それにいてもわが社はこんなことをするほど儲かっていたっけ? 昨年度は確か揺り上げが足りないのでと一斉告知があって、全員減給されるような事態になったはずだ。今年度も大いに儲かっているというような話は聞いたこともない。それなのに、こんな催しっていったいどういうことなんだ? こんな余剰金があるのならむしろお金で返してほしいのに。 

 会場にはステージがあって、なにか見世物があるのだろうなと思っていたら、案の定司会者が登場して言った。

「さて、みなさん、本日はお忙しい中をお運びいただきましてありがとうございます……」

 ひとしきり挨拶をしてから司会者が言った。

「それでは、本日は”あなたの知らない社内のあんなこと”と銘うちまして、従業員の皆さまが楽しい見世物を拾うしてくれます!」

 それから順次、従業員が隠し芸というようなものを披露しはじめた。

 最初に出てきたのはロックバンドだ。派手な革ジャンを着た大男がバンド演奏をバックに歌いはじめた。

「あれ、誰だ?」

 思わず声を出すと隣にいた同僚が言った。

「あれ、営業部の鬼河原部長ですよ」

 へぇー! あの禿頭が金髪かつらを被ってボーカル?  すげー! 

 次に出てきたのは黒ずくめのSM女王みたいな姿のマジシャン。

「あれは誰?」

「あれは、経理のお局さん、浜崎女史ですよ」

 なんてこった。ぶよぶよの身体を革の中に押し込んで手品をするが、鳩は逃げるわ、カードはばら撒くわ、猿は言うことをきかないわという悲惨なショーだった。

 その後も雑技団みたいなアクロバットやダンス、コーラス、漫才など、よくもまあ社内にこんなに多彩な人材がいたものだ、これなら芸能プロダクションだってできるんじゃないのと思うほどの出し物が披露されていよいよ佳境にというところで再び士会が登場した。

「さて、時が経つのは早いもので、”あなたの知らない社内のあんなこと”も最後の出し物となりました。では、最後は漫談の山田小路タロマロさんです! はりきってどうぞ!」

 禿頭にお下げを付けた、派手なジャケットの差長が現れた。

「はぁい、レディスアンドジェントルマン、おじいちゃんおばあちゃん! 本日は金もないのにようこそいらっしゃいました!」

 相手が社長だと丸わかりなだけに、笑うべきなのか、笑ってはいけないのかよくわからない。

「あれからはや四十年、わが社も大きくなりました。大きくなりすぎてもう手も足も動かせない? 恐竜じゃあるまいし。はてさて、本日は”あなたの知らない社内のあんなこと”でございますな。いやいや一部知ってる人もいるかもですが、実はわが社にはもうお金がありません! 今日、この場で、この催しで、ぜーんぶ使い切ってしまいました! ということで、本日でわが社は解散ということで、そのためにみなさんにもお集まりいただき……」

 ジョークなのか本気なのかわからない話は延々続き、呆れた社員が全員帰ってしまうまで終わることはなかった。 

漫談.jpg 

                      了


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