第七百七十三話_short 蚯蚓子能納の考え方 [literary(文学)]
「いやぁ、本当は嫌なんですけどねえ」
ヘタうま漫画で知られる蚯蚓子能納が言った。漫画化なのにバラエティ番組でいじられキャラとして出演することの多い蚯蚓子は、かなりおかしなおっさんとして有名になってしまっているのだが、今日は珍しく真面目なトーク番組でしっかりとした自分の意見を話しているのだ。
テレビというメディアの恐ろしさを知っている者でさえ、この蚯蚓子は相当おバカで困った人間だと認識していたのだが、この日の番組を見る限りはそうでもないらしいことが伝わってきた。
「じゃあ、なんでそんな嫌なことをテレビでやるんですか?」
番組の主宰でもある佐知子が訊ねた。
「経緯はいろいろあるんですけどね・・・・・・」
そのきっかけとなったエピソードを披露した後、蚯蚓子が言った。
「だってその嫌なことを一回するだけで、普通のサラリーマンが一カ月働いていただくお給料くらいもらえるんですよ」
芸能人がそんな日銭のことを言うのはみっともないようにおもえるのだが、蚯蚓子が言うと、すごく尤もな話に聞こえた。
「だってみんな嫌なことやってお金もらっているじゃないですか。サラリーマンだって、毎日嫌なことをして月給貰ってるんだと思うんですよ」
お金のためになにかをするという発想そのものがいかがなものかという人もいるかもしれないが、実際のところ、生きていくためにほとんどの人が本当はしたくもないことをやっているということも否めない。
「でも、蚯蚓子さんは、そんな嫌なこと死なくったって、漫画で稼いでいるじゃないですか」
「……まぁ、そうなんですけどね、お金はいただけるならいただけたほうがいいじゃないですか。それでギャンブルだってできるんだし」
まったくもって正直な話である。しかし、その嫌なことっていうのがどのあたりまで嫌なことなのかにもよるのではないかしらん? インタビュアーをやっている佐知子はそう思ッて、さらに突っ込んだことを聞いてみた。
「じゃぁ、蚯蚓子さん、お伺いしますけど、お金のためなら何でもやるんですか?」
真面目な顔だった蚯蚓子さんが一瞬につものいじられキャラの顔に戻った。
「え? たとえばどんな……?」
「そうですねえ、たとえばカレーライス。ご飯の上にカレーの代わりに似たような臭いものがかかっていて、それを食べてとか……」
いつもの蚯蚓子が戻った。
「えっ? いやっ! それ? なに? 臭いって? まさかその、ウン……じゃないでしょうね……? ウンじゃなければ……」
「いや、新鮮なウン……です。今日はスタジオに用意しているそうです」
目の前に出されたカレーライスみたいなものが入った皿を眺めながら蚯蚓子が言った。
「で、これ食べたらいくら……?」
了
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